『いだてん』中村勘九郎が初めて感じた“プレッシャー” 日本陸上界に繋がれてきた努力のバトン

 走ることにひたむきだった四三がはじめて経験するプレッシャー。プレッシャーの存在を知り、それを受け入れた四三を中村は笑顔で演じていた。だが彼らが笑顔になればなるほど、彼らが感じてきた絶望や緊張が際立ち、“日本人初のオリンピック選手”というものがどれだけの重みだったかが視聴者の胸に突き刺さる。

 弥彦が出場する最後の競技、400メートル走。走り終えた弥彦は準決勝の棄権を表明する。競技終了後に駆けつけた面々に向かって「日本人に短距離走は無理です。100年かかっても無理です」と語る弥彦。しかしその表情には清々しさがあった。敗北したことへの悔しさはあったはずだ。だがそれ以上に、日本人として世界の舞台に立ったこと、自分自身という敵に向き合い、競技に全力で臨んだことへの充実感に溢れていた。

 「三島さん、楽しかったですか?」という四三の問いに「楽しかった」と力強く答える弥彦。「もう走れーん」と楽しそうに笑う弥彦の表情はとても魅力的である。生田が見せた豊かな表情や繊細な心情描写によって、短距離走における日本人の先駆者・三島弥彦の存在感が、視聴者の心に深く刻まれたはずだ。

 「日本人に短距離は100年早い」と発した弥彦。しかし彼の存在が、日本人短距離走者の飽くなき探求を続けさせる要因となったのは確かだ。弥彦がオリンピックに出場してから96年後、北京オリンピック400メートルリレーで、日本男子がトラック種目で初のメダルを獲得している。先人たちから繋がれてきた“努力のバトン”が実を結んだのだ。次回はいよいよ四三の番。長距離走に臨む四三の運命やいかに。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

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