『ガルパン』『サイコパス』『スパイダーバース』も 音響監督・岩浪美和に聞く、映画の音の作り方

「作品全体の強弱をつけることで、ドラマとしてもダイナミズムが生まれる」

――Twitterで、「『劇場版 サイコパス』の作業時に「映画の音の作り方」が学べた」と仰っていましたね。

岩浪:映像にテストで音をつけた試写をした際、映像はハリウッドのアクション大作と同レベルまでにスケールが膨らんでいるのですが、音響は映像に追いついておらず、作品として成立していませんでした。それで暗澹たる気持ちになって、音響もハリウッドの実写作品のように修正していきました。映画音響ではダイナミックレンジといって、音の大きい・小さいの幅をいかに取るかが大切なポイントになります。テレビの場合、1から10まで音の幅があるとしたら、だいたい7~10の間で作ります。テレビは家で見るものなので、大きな音で聞くことはあまりありませんし、家庭内の様々な環境音があります。ある程度の音量をキープしつつ音を作るのがテレビの音の作り方です。一方で映画の場合は0から110くらいまで使えます。その幅をきっちり使うとなると、作品全体の音量のコントロールを細かく設計しなければいけません。

『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian』(c)サイコパス製作委員会

 実際我々が日常的に生活していて大きな音を聞く機会はあまりありません。人が対面して話す音量が60~65dB(デシベル)くらい、近くで聞くクラクションの音が110dBくらいと言われています。映画館では、60dB〜100dBくらいの幅をつけることができます。最大の瞬間値は110dBくらいですね。ただ抑えるところは抑えないと、うるさいだけの映画になってしまいます。作品全体の強弱をきっちりつけることで、ドラマとしてもダイナミズムが生まれる。これが映画の音です。今まで日本のアニメーションでは、これを意識して作られた作品があまりなかったように思います。

ーー日本と海外で音の作り方にも違いがあるのでしょうか?

岩浪:ハリウッドの映画の音と何が違うのか研究していました。特にデジタル上映になってから、日本と世界で差が開いてしまったという印象がありました。レンジの取り方、効果音の作り方が大きく違っていて、「うるさい」と感じさせない大きな音の作り方にポイントがあります。

ーーそれはどういう音なんでしょう?

岩浪:音の波形で説明するのが、一番わかりやすいと思います。縦軸が音の大きさ、横軸が時間です。従来と違うのは、鋭い「アタック」です。

 

 従来の音だと、爆発や発砲音は青線のような形になります。ドーンと山なりに音が立ち上がって、ゆっくりと減衰していく音です。一方でアタックのある音は、赤線のような波を描きます。最高点への到達が早く、そしてすぐに減衰する音です。通常、人間が110dBの音を持続して聞くと不快に感じますが、アタックの強い音は、大音量に感じる範囲に一瞬しか入りません。この一瞬は1/10秒以下です。それでも人間の耳は優秀なので、瞬間的な音でも大きいと感じるんですね。ただすぐに減衰するため、あまり不快に感じないのです。従来の青線の音で迫力を出そうと音量を上げるだけだとうるさくなってしまう。洋画の音源を聞いていると、そこが一番の違いだと感じていました。そういう音を開発しようと、テレビアニメで色々と試行錯誤していたのですが、それを顕著に意識したのが『ガールズ&パンツァー 劇場版』です。本作は発砲と爆発のつるべ打ちなので、迫力のあるうるさくない音を作るのが重要でした。それも、ヒットの一つの要因と言えるかもしれません。

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