宮崎駿監督作品からの影響も? 『移動都市/モータル・エンジン』に隠されたテーマ

 面白いのは、飛行機や巨大な機械が登場する活劇に代表されるように、本作の美術や演出が、『風の谷のナウシカ』(1984年)や『天空の城ラピュタ』(1986年)などの宮崎駿監督作品の世界観に非常に近しいという点である。宮崎監督がこれまで作品によって主張してきた代表的な政治理念は、「帝国主義」、「植民地主義」に代表される、従来の西洋的な価値観の否定だ。日本の観客の多くが本作を観たときに気づくのではないかと思うが、本作はおそらく、奇しくもテーマを共有する宮崎作品から大きな影響を受けているのではないだろうか。印象的なラストシーンから想起されるのは、『ハウルの動く城』(2004年)である。

 欲望によって自滅に向かうのが人類の本能に刻まれた欠陥だとするならば、それを回避するべく様々な知恵を絞るという行為は、それを補う美点であるだろう。そのどちらが勝利するのかが、人類の未来を決定するはずだ。本作が圧倒的な視覚効果によって描ききったのは、その戦いの果てにあり得る、一つの可能性であろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『移動都市/モータル・エンジン』
全国公開中
製作:ピーター・ジャクソン
監督:クリスチャン・リヴァーズ
出演:ヘラ・ヒルマー、ロバート・シーアン、ヒューゴ・ウィーヴィング、ジヘ、ローナン・ラフテリー、レイラ・ジョージ、パトリック・マラハイド、スティーヴン・ラング
原作:フィリップ・リーヴ著/安野玲訳『移動都市』(創元SF文庫刊)
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures
公式サイト:http://mortal-engines.jp/

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