異色のNHKドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』 櫻井智也の“劇作家”としての脚本作り
「やりたいものを全部このドラマに落とし込んだ」
――今回、連続ドラマを通して書いたのは初めてで、かなり大変だったということですが、苦労されたのはどんな点ですか?
櫻井:打ち合わせが始まったのが2018年の5月で最終話を書き上げたのが年末でした。7月ごろ第1話を書いた時点で女の子にメールし、「ちょっとこれ、全部書くの無理だわ」って(笑)。1話30分だから台本も30ページぐらいなんですが、その分量にまとめるまでに2倍、3倍を書いていたんですよ。ひとつのセリフが出てくるまでに9時間かかったこともあったし、そこから削ったり組み合わせたりしたので、作業効率が悪すぎました。自分の脳内で登場人物たちが「もっとしゃべらせろ」と言ってくる感じがあって、「ちょっと待て。30分枠なんだよ。出張ってくんじゃねぇ」と言い聞かせたんですが、聞いてくれない。特に主張が強かったキャラクターは柚木(土村芳)でしたね。とにかく台本として完成させるまでに僕の中で美意識のようなものが働いちゃって、どんどん脚本が遅れ気味になり、プロデューサーさんたちに迷惑をかけてしまいました。
――そんな切迫した状況をどう乗り切ったのですか?
櫻井:とにかくできあがった台本をスタッフさんが楽しんでくれて、ノリノリで同じ方向を目指しながらやってくれたので、迷ったときも「このチームで面白いということになったらそれでいいんじゃないか」と思えました。その信頼関係があったことが大きかった。でも、それってすごく恵まれた特殊な状況だったのかもしれません。このドラマは僕にとってご褒美だったんじゃないかなと思ったぐらいで、最後には「書き終わりたくないな」という気分にまでなりました。自分が面白いと思うもの、自分が見たいと思うもの、こういうことをやりたいなと思うもの。それらを全部このドラマに落とし込んで、やりきりました。「これが終わったら脚本家としてまたイチから始めなきゃ」と覚悟したぐらいです。
とにかく“会話”を極める
――櫻井さんは新作『俺のスカート、どこ行った?』(4月20日スタート、日本テレビ系)でも再び連続ドラマを書きますね。現在、ドラマ業界では櫻井さんのように劇団を主宰する劇作家の起用が増えていますが、劇作家がドラマを書くときに苦労することはなんですか?
櫻井:僕は劇団を25年やってきて、これまで「演劇的に何が優れているか」と問われたときに挫折してきたから、じゃあ何が自分のストロングポイントかと考えて、とにかく会話を極めようと思ったんです。見る人から遠くない身近にあるようなセリフを書いて、会話聞いているだけで楽しいし、いろいろ考えさせられるものを書いていこうと。だから、どんな内容のドラマでも、僕には会話があるというのが拠り所になっていますが、そういう根幹としてやりたいことが見つかっていない人がドラマを書くと、やはり条件的にいろいろ求められることが多いのでたいへんかもしれません。
――『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』はいよいよ最終回を迎えますが、町の人々は果たしてどうなるのでしょうか?
櫻井:主人公のみずほは「いつ死んでもいい」と思っている子で、それが前向きな人間に変わるとか、あからさまに成長はしないけれど、タイトルどおりゾンビに遭遇したことによって人生に気づきがあったはず。以前の日常に戻ったとしても、ある程度の葛藤の中で生きていくんでしょう。そこはヒロインが成長しがちなNHKのドラマの中では異色ですけれど(笑)。1話と同じようにみずほたち女の子3人が部屋でしゃべる場面があるんですが、そのちがいに注目してほしいですね。そこには連続ドラマならではの物語がつながってふくらんでくる面白さがあると思います。そして、ゾンビがどうなるかは……どうにもならないかも? あと、最終回には僕も出ます! どこに出てくるか乞うご期待(笑)。
(取材・文=小田慶子)
■放送情報
よるドラ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK総合)
毎週(土)後11:30~11:59(全8回)
作:櫻井智也
演出:梛川善郎、中野亮平、野口雄大
音楽:サキタハヂメ、小山絵里奈
出演:石橋菜津美、土村芳、瀧内公美、大東駿介、渡辺大知、山口祥行、片山友希、根本真陽、川島潤哉、阿部亮平、葛城ユキ、原日出子、岩松了 ほか
提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/zombie/