『いだてん』は“ダメな庶民のダメな話”を綴る? 通常の大河ドラマとは異なる2つのポイント

大失敗をしでかした2人が主人公

 主人公はストックホルムオリンピックに日本初の代表として出場したマラソンランナーの金栗四三(中村勘九郎)と、東京オリンピックを招致した田畑政治(阿部サダヲ)。金栗四三は“マラソンの父”として知られる存在ではあるが、けっして多くの人に知られていた存在ではない。田畑政治に関しては知らなかった人がほとんどだろう。

 坂本龍馬(『龍馬伝』)、真田信繁(『真田丸』)、西郷隆盛(『西郷どん』)らが名を連ねるここ10年の大河ドラマの主人公たちと比較しても、両者の知名度のなさは一目瞭然。主人公の知名度はドラマの面白さにはまったく関係ないのだが、ネガティブに捉えると「とにかくなじみのない主人公で、ストーリーもわかりづらい」という評価につながってしまいがちだ。

 金栗四三と田畑政治は単に知名度がないというだけではない。両者とも、とんでもない失敗をやらかしているのだ。宮藤官九郎は2人について次のように語っている。

 「金栗さんは期待を背負って出場したストックホルムオリンピックで気を失ってしまったり、田畑さんは失言がもとで64年の東京オリンピックの直前に大事なポストから降ろされたり。でも、そういう部分に人間味をすごく感じました」

 「ほかにもすごい人たちはたくさんいたんですけど、僕自身、勝ち進んで上に登りつめていく人よりも、何か大きな目標に向かっていったのに達成できなかった人に親近感が湧いてしまうんですよね」(いずれも『いだてん』公式サイトより)

 これまでの大河ドラマは、有名な武将や歴史的人物がまさに「勝ち進んで上に登りつめていく」過程が描かれてきた。数々の失敗や悲劇的な最期が描かれることもあるが、基本的に大河ドラマの視聴者は、主人公が功成り名遂げる姿を見てカタルシスを感じ、そこをベースとして登場人物たちが織りなす人間ドラマを楽しんでいた。

 一方、『いだてん』は失敗ばかりだが人間味あふれる登場人物たちがドタバタを繰り返し、成功をつかむかと思えば、必ずしもそうでもない。これまでの大河ドラマと正反対の志向だと言えるだろう。

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