音楽の世界を駆け抜けた冒険家ミシェル・ルグラン 映画音楽で開花させた才能を紐解く
映画音楽の作曲家として活躍
60年代に入るとルグランは映画音楽の作曲家として活躍するようになる。なかでも、ジャック・ドゥミ、アニエス・ヴァルダ、ジャン=リュック・ゴダールなど、同世代のヌーヴェルヴァーグの監督との交流はルグランに刺激を与え、サントラを手掛けた『5時から7時までのクレオ』(61年)では、役者として出演してピアノを弾いている。そして、ルグランにとって最良のパートナーになったのがジャック・ドゥミだった。二人はセリフもすべて歌にした画期的なミュージカル『シェルブールの雨傘』(64年)を制作。本作はカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、当時は無名だった主演女優、カトリーヌ・ドヌーヴをスターにした。そして、主題歌をはじめミュージカル・ナンバーは世界中でカヴァーされることになる。
ドゥミ=ルグラン・コンビは、続いてミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』(67年)を制作。ヨーロッパ的な哀愁を感じさせた『シェルブールの雨傘』と対照的に、『ロシュフォールの恋人たち』はアメリカのミュージカルにオマージュを捧げた明るく開放的な作品になった。『雨傘』も『恋人たち』もドゥミの映像とルグランの音楽はぴたりと重なり、色彩豊かな映像と音楽がファンタジックな世界を生み出している。二人はその後もタッグを組み、おとぎ話をミュージカルにした『ロバと王女』(70年)など様々な作品を送り出した。
1967年にルグランは活動拠点をアメリカのLAに移したが、そこで初めて手掛けたハリウッド映画のサントラが『華麗なる賭け』(68年)だ。ルグランは編集前の映像素材を観て、その印象をもとにサントラを書き上げた。バロック音楽とジャズを融合させた独創的なサウンドはルグランの真骨頂。映画は大ヒットを記録し、ノエル・ハリスンが歌う主題歌「風のささやき」もヒットチャートを駆け上がってルグランの新たな代表曲になった。ハリウッドでも成功を収めたルグランは、『おもいでの夏』(71年)、『愛と哀しみのボレロ』(81年)、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(83年)など、国境を越えて数々のサントラを手掛けた。そんななか、手塚治虫の漫画を実写化した『火の鳥』(78年)のテーマ曲とイメージ・ソングや『ベルサイユのばら』(79年)のサントラなど日本の作品も作曲。親日家として知られる彼は何度も日本を訪れ、昨年の7月にはまるでお別れを言うように最後の日本公演を行った。