近年の「フランス映画」で異彩放つフランソワ・オゾン 『彼は秘密の女ともだち』の哲学的含意とは?

 2012年に公開されるや爆発的なヒットを記録し、累計興行収入が16億円を突破するなど、2001年に公開された『アメリ』を抜いて、日本で最もヒットした「フランス映画」となった『最強のふたり』。この映画を筆頭に、2010年の『オーケストラ!』、2013年の『タイピスト!』――あるいは、アカデミー賞5部門受賞した2012年の『アーティスト』など、「感動」を謳い文句としたフランス産エンターテインメント映画が、近年ここ日本でも人気を集めている。ゴダール、トリュフォーといった「ヌーヴェル・ヴァーグ」の時代より、良くも悪くも「難解」、あるいは「哲学的」と形容されていた、日本における「フランス映画」のイメージ。それが近年、変化しつつあるように思うのだ。身体の不自由な大富豪と移民の介護人の友情を描いた『最強のふたり』のように、プロットの面白さが口コミで広がり、単館系でヒットを飛ばすようなエンターテイメント作品として、今や女性客を中心に広く認知されつつある「フランス映画」。その多くが、毎年3月に開催されている「フランス映画祭」で「観客賞」を受賞している映画であることは、決して偶然ではないだろう。

 そんな変化しつつある日本における「フランス映画」の状況にあって、ひとり特異な存在感を放っているフランス人監督がいる。現在、『彼は秘密の女ともだち』が公開中のフランソワ・オゾンである。フランス、パリ出身の47歳――もはや、中堅からベテランの領域に差し掛かろうとしているオゾン。先ほどの挙げた映画の多くが、役者や監督の名前ではなく、作品そのものの面白さによって支持されているように思えるのに対し、オゾンは現在数少ない「名前」で客を呼べるフランス人監督として認知されていると言っても過言ではないだろう。もちろん、ゴダールやカラックスなど、常に新作を待たれているフランス人監督は他にも数多くいる。しかし、『ホームドラマ』(1998年)で初めて日本に紹介されて以降、コンスタントに作品を撮り続け、近年は『しあわせの雨傘』(2010年)、『危険なプロット』(2012年)、『17歳』(2013年)、そして今回の『彼は秘密の女ともだち』(2014年)まで、ほぼ毎年のように新作が日本で公開されているフランス人監督は、今やオゾンひとりしかいないのだ。

 オゾンの名が、日本で広く知られるようになったのは、2002年に公開された『8人の女たち』の頃からだろう。屋敷の主人の死をきっかけに、妻や娘、愛人、メイドなど、彼の周囲にいる8人の女たちの関係性が浮き彫りになってゆくサスペンスでありながら、ミュージカル仕立てでもあるというこの映画。カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアールなど、フランスを代表する女優たちの競演も話題となった本作は、その華やかなルックと軽妙なタッチ、そしてブラックなユーモアによって、日本の観客にも広く受け入れられたのだった。もともと戯曲を映画化したものだったとはいえ、2004年と2011年の2回にわたって、日本人キャストで同作が舞台化されているのは、まさしく異例のことである。その後、2004年に公開された『スイミング・プール』で、「若さ/老い」など女性の美醜やアイデンティティの問題を鋭くえぐり出してみせたオゾンは、再びドヌーヴとタッグを組んだ『しあわせの雨傘』で、もはや完全に日本での人気を不動のものとしたと言えるだろう。

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