『みかづき』は高橋一生から見た“家族の物語”に 原作小説とドラマが異なる作風になった理由

ドラマは吾郎版『みかづき』を映像化したもの?

 「吾郎の中に芽生えていたのは、もっと別の思いであった。初めて手に入れた家庭という宝物を吾郎はただただ守りたかった」

 第2話の冒頭や第4話の途中など、吾郎を演じる高橋が「吾郎は……」とナレーションするのが面白い。声色に変化がつけてあることから、白髪の吾郎が自作の小説『みかづき』を朗読しているものだということがわかる。

 原作小説とドラマのタッチの違いをどう考えるか。筆者は、原作の『みかづき』がファクトであり、ドラマの『みかづき』は吾郎の目に写った世界を描いた“大島吾郎・作の小説『みかづき』”を映像化したものだと考える。第3話での「書かれてあることがすべてじゃない。そこからこぼれてしまったこともいっぱいある」という吾郎の言葉も、原作小説とドラマの関係を言い表しているようだ。

 原作では峻厳で冷徹だった千明がドラマではやたらとチャーミングなのも、吾郎の目からはこう写っていたと考えれば合点がいく。蕗子に吾郎が語って聞かせる「お母さんはすごく可愛い人だよ」という言葉は原作どおりだが、その思いを映像化したものがドラマの中の千明なのだろう。第2話の谷津遊園のシーンで千明と蕗子の笑顔がやたらアップで写し出されるのも、合成の都合というだけでなく、吾郎の記憶に家族の笑顔が深く刻み込まれていたのだと解釈できる。

 登場人物の誰もがテンション高めで感情や情熱を表に出しているのも、吾郎が描き出した世界だからなのではないだろうか。だとすると、それを読んだ吾郎と千明の孫、上田一郎(工藤阿須加)が触発されてもおかしくない。いや、そもそも吾郎が書いた『みかづき』は、一郎を焚きつけるためのものではなかったか。だから最初に「この物語を不肖の孫である、一郎に捧ぐ」と書いてあったのだ。

 最終回は吾郎と千明の最後の夢と、家を出た娘の蕗子、そして子どもたちのために補習教室を始めることを決意した一郎の物語となる。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
土曜ドラマ『みかづき』
NHK総合にて2019年1月26日より毎週(土)21時〜放送(連続5回)
脚本:水橋文美江
音楽:佐藤直紀
出演:高橋一生、永作博美、工藤阿須加、大政絢、壇蜜、黒川芽以、風吹ジュン ほか
演出:片岡敬司(NHKエンタープライズ)ほか
制作統括:陸田元一(NHKエンタープライズ)、黒沢淳(テレパック)、高橋練(NHK)

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