グレン・クローズが見せる解放と恍惚の表情ーー『天才作家の妻』が描く“妻”という役目
ここ最近、女性が書くことを主題とした映画として、エル・ファニング主演『メアリーの総て』(2017年)やキーラ・ナイトレイ主演『コレット(原題)』(2018年)などが立て続けに製作された。『メアリーの総て』で描かれたメアリー・シェリーは、彼女が匿名のもとに産み出した怪物譚である『フランケンシュタイン』(1818年)初版の序文を、夫にさも自分が書いたように書かれたことを、のちに暴露している。あるいは、『コレット』で描かれたフランスの作家・シドニー=ガブリエル・コレットは、ゴーストライターとして時には部屋に閉じ込めて書かせるなど陵辱し続けた夫の元を離れ、生涯にわたって奔放な恋愛をしながら書くことを謳歌した。しかし、本作における“作家の妻”は、そのどちらでもない選択をする。
もっとも重要なことは、彼女が“真実”を誰にも語らせず、誰にも委ねず、ノートの白紙のページを撫でるまさにその手にのみ握っている点にある。それこそが、“作家の妻”としてしか生きてこられなかった彼女の、なによりの復讐なのだから。
■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter
■公開情報
『天才作家の妻 -40年目の真実-』
新宿ピカデリーほかにて公開中
監督:ビョルン・ルンゲ
出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレーター
後援:スウェーデン大使館
配給:松竹
2017年/スウェーデン、アメリカ、イギリス合作/英語/101分/シネスコ/カラー/日本語字幕:牧野琴子/原題:The Wife
(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
公式サイト:ten-tsuma.jp