こんまりメソッド、なぜ全米で大反響? 日本発の片づけ術が“セラピー”として機能する理由

こんまりメソッドの、セラピーとして機能

 『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』で、アメリカ向けのバランス調整が施されている部分をしいて挙げるとすれば、セラピーの要素ではないだろうか。クライアントはそれぞれに問題を抱えている。子どもの世話が忙しく、家事などで衝突しがちであるとか、長年連れ添っているため会話が少なくなり、暗黙の了解や無言の意思疎通が増えているなど、クライアントである夫婦や家族間には何らかのストレスや不和があることが示される。こうした問題を、家族全体が片づけという作業を共に行っていくことでセラピー的に解決していく。その過程に近藤は寄り添っているのだ。とはいえ近藤は、片づけ以外のアドバイスはいっさい行わない。なぜなら近藤は「片づけをしたあと、仕事も家庭も、なぜか人生全般がうまくいきはじめる」(前掲書 p2)と主張しており、おおよその悩みは片づけによって雲散霧消するという信念があるためだ。たとえば、同性愛者であることで両親に心配や負担をかけてしまっているのではないかと悩む男性は、恋人と協力して家を片づけ、美しく整えることによって、胸を張って両親を家に迎え入れことができる。近藤はただ明るい笑顔でクライアントを訪問し、片づけの方向性を示していくのみだが、きわめて敷居の低い一連の片づけ作業が、結果的にアメリカ人好みのセラピーとして機能しているのはきわめて興味ぶかい。

 かくして、近藤が自分の資質にぴったり合った活躍の場を見つけ、アメリカへ渡って大きなチャンスを得て、新しい方向性を見出していく様子は、多くの日本人にとっても純粋に嬉しいことではないだろうか。私自身、番組を見終えて、思わず片づけを初めてしまったほどだ。とはいえ、洋服をたたみながら洋服と会話できるようになるには、もう少し時間がかかりそうではあるのだが……。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

■番組情報
Netflix『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』
シーズン1/エピソード1〜8配信中
URL:https://www.netflix.com/jp/title/80209379

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