ヴァネロペとラルフが象徴する「和解と別離」 『シュガー・ラッシュ2』が描く現実のほろ苦さ

『シュガー・ラッシュ2』が描くビターな「現実」

 2016年末の米大統領選は、女性や有色人種、LGBTのエンパワーメントを緊急の課題に押し上げた。だが同時に、切れば血の出る闘争を、知性を示すためのファッションアイテムに変えてしまった面もある。トランプ以後、差別をなくそうと声高らかに宣言するだけのアイデンティティ・ポリティクスは行き詰まりをみせ、現実的な着地点を探る段階に達しつつある。

 本作では、実際の解決策を示すまでには至らないが、状況や価値観の不均衡をあえてそのままにすることで、文字通り無言の問題提起をしてみせる。つまり、ヴァネロペのエゴやチートが不思議なほど咎められないのは、その判断を観客にゆだねる姿勢のあらわれなのだ。

 『ズートピア』に2016年なりの葛藤があったように、本作には2018年の葛藤がある。「共同体のため、自分を犠牲にしてプログラム通りの役割をこなす」女の子の物語をいま描くのはむずかしいが、かといって責任の放棄には危険もつきまとう……。この映画における分裂は、そのまま2018年の分裂と同期する。

 映画『シュガー・ラッシュ オンライン』の終点に置かれるのは、前作のような勝利、即位というお決まりのハッピーエンドではなく、和解と、別離である。一貫したテーマーー「志の異なる2人がどのように歩んでいくのか?」に示される答えは、香水のごとく振りまかれるきれいごとではない。

 矛盾を抱えながら前進すること。
 ひび割れた自分を受け入れること。

 そこでは、だれかを尊重するために、他のだれかの胸を痛めてしまうーーわたしたちが悲しいほどによく知る現実の空気を嗅ぐことができる。

■野村レオ
93年生。人文学、ポップ音楽、映画等々のディレッタントです。仕事ください Twitter: @leoleonni

■公開情報
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
全国公開中
監督:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン
製作:クラーク・スペンサー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2018 Disney. All Rights Reserved.
公式サイト:Disney.jp/SugarRushOL

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