野木亜紀子が生み出すドラマが教えてくれること 『けもなれ』ほか新垣結衣主演作から読み解く
人との出会いにこそドラマがあるということ
そんな中、4作品の中でも比較的趣向が異なるドラマが、『掟上今日子の備忘録』である。新垣結衣演じる掟上今日子は、推理力抜群で、多くの知識を持ち、次々と事件を解決していく名探偵。ところが、彼女の記憶は1日でリセットされてしまうために、体のいたるところに大切なことをメモしているのだ。確かに、このキャラクター像だけを見ると、先に触れた3作品の主人公のいずれともタイプが異なる。少なくとも、私たちの日常の中で見かけそうなヒロインではないかもしれない。ただ、本作の見かけはいわゆる“探偵ドラマ”であるが、実際は極めて人間について掘り下げたドラマである。
本作を語る上で欠かせない要素の一つに、岡田将生演じる青年・厄介との出会いがある。厄介は今日子に好意を抱いているのだが、せっかくアプローチしても1日で忘れられてしまうために、毎日振り出しに戻る。来る日も来る日も、今日子からしたら厄介はいつも初対面。ただ、今日子がたとえ記憶を失おうと、周りの人々の記憶には残り続ける。厄介は彼女との出会いの意義を、そんなふうにして見出すのだ。
同様に、『空飛ぶ広報室』では広報室の人々との出会いが、『逃げ恥』でも平匡との出会いが、それぞれ価値あるものとして位置づけられている。テレビドラマの中には、ヒーロー/ヒロインの活躍ぶりを華麗に描く作品もあり、そうした作品も当然描かれる意義はある。ただ、野木ドラマの多くは作中での人間同士のかかわり合いに比重がある。私たちは人生を通じて、“何を”成し遂げたか、“何を”生み出したかを気にすることがある。でも、それだけではなく、私たちは“誰と”語らい合ったか、“誰のために”思い悩んだかにもっと目を向けてもいいのではないか。日常の中でドラマが生まれる瞬間の多くは、人との出会いの中にある。当たり前のようなことであるが、私たちは人と人との緩やかなつながりの中で生きていることを何度も忘れる。いかに意味のある仕事をなしたか、結果を出したかの方が、自分が「生きている」ことの確認もしやすいし、シンプルだからだ。
『けもなれ』に登場する人物は、晶も含めて、誰かが大発見をするとか、大きな目標を達成するということは極めて少ない。まさしく、“堂々巡り”なのである。そう簡単に答えは出ないし、前にも進まない。ぎりぎりまで身をすり減らすこともある。翌日には憂鬱な仕事が待っている。そんなサイクルに絶望する方もおられよう。でも、仕事から帰ってくれば、クラフトビールを飲む場所があれば、話を聞いてくれる相手もいる。タクラマカン斎藤(松尾貴史)もまた、同じ世界に生きているのだ(もちろん、彼にも悩みはあるのかもしれないが)。人生をポジティブに考えられるきっかけは実は、私たちが普段意識しない人々が隠し持っていたりして……。野木ドラマが教えてくれることの一つは、やはり“人間同士の出会い”にほならない。
(文=國重駿平)
■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/