ファンタビ『黒い魔法使いの誕生』は大人向け? 覚えておきたい『ハリー・ポッター』との繋がり

『ハリー・ポッター』シリーズとの繋がり

 本作では、若きダンブルドアが登場することもあり、懐かしのホグワーツ魔法魔術学校もスクリーンに帰ってきた。それと同時に『ハリー・ポッター』シリーズおなじみのキャラクターや道具、用語なども登場。

セストラル

 まず冒頭のセストラルの登場は、かなりのサプライズでもあり、“大人向け宣言“のようにも映った。セストラルは、グリンデルバルドがニューヨークから護送される際に馬車を引いていた、黒く骨ばった翼のある馬。初登場は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』で、死を目の当たりにした者にしか見えない動物である。『不死鳥の騎士団』では、ハーマイオニーやロンには見えず、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でセドリック・ディゴリーを目の前で殺されたハリーと、母を亡くしたルーナ・ラブグッドにのみ見えるという描写があった。『ハリー・ポッター』では、子供から大人へ成長する過程の中での大きな経験となる「死」をセストラルを通して描いている印象だったが、『黒い魔法使いの誕生』では、ニフラーたちと同じく当たり前の生き物ようにセストラルが登場し、『ファンタスティック・ビースト』のキャラクターと「死」は、ニュートと魔法動物のごとく共存していることがわかる。

ニコラス・フラメル

 コミコン予告で話題となったニコラス・フラメルの登場。日本版予告ではカットされ、CMでも登場しないため、一部のマニアの間でしか話題になっていないが、ニコラスは、賢者の石をダンブルドアと共同で開発した錬金術師だ。『黒い魔法使いの誕生』では、ニコラスが棚からアルバムを取り出した際に、賢者の石が赤く光っているのが見える。『ハリー・ポッターと賢者の石』小説版では文中のみ、映画版ではハグリッドが言う「あの犬(フラッフィー)が守っているものに関われるのは、ダンブルドアとニコラス・フラメルだけだ」などセリフのみで登場。ニコラスは賢者の石から作る「命の水」で延命しており、『賢者の石』の1992年の時点で665歳。しかし、『賢者の石』でのヴォルデモートの事件を受け、ダンブルドアとニコラスは賢者の石の破壊を決意。ニコラスもついに死を迎えることになる。それを聞いて彼の死を案じたハリーに、ダンブルドアがかけた「結局、きちんと整理された心を持つ者にとっては、死は次の大いなる冒険にすぎないのじゃ」という言葉はファンの中でも人気が高い名言とされている。

 今回ニコラスを演じたのは、ブロンティス・ホドロフスキー。『エル・トポ』『リアリティのダンス』などのアレハンドロ・ホドロフスキー監督の息子で、『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』で、アレハンドロの父親ハイメ役を務めていた。

レストレンジ家

 『黒い魔法使いの誕生』は、グリンデルバルドとリタ・レストレンジ(ゾーイ・クラビッツ)の物語と言っても過言ではないだろう。リタは前作『魔法使いの旅』で、ニュートのトランクの中に飾ってある写真で登場し、今回ニュートの兄のテセウスの婚約者だということが明らかになった。そんな本作の中でも見逃せなかったのが、リタがホグワーツを訪れたシーン。リタが開けた机の裏には、「L + N」というリタとニュートが惹かれ合っていたかのような文字や、死の秘宝マークが掘られていた。さらに、INSIDERなどによれば、「Nigellus(ナイジェラス)」という文字も確認できるそう。ナイジェラスと言えば、かつてのホグワーツの校長で、シリウス・ブラックの高祖父であるフィニアス・ナイジェラス・ブラックが思い当たる。

 やはり気になるのは、『ハリー・ポッター』シリーズで登場したベラトリックス・レストレンジとの関係性。ベラトリックスは、ブラック家の生まれで、のちにロドルファス・レストレンジと結婚し、レストレンジ家に入った。しかも今回登場したレストレンジ家の家系図は、女性が花で表されていたり、死者の木は枯れたりなど顕著な違いがあるものの、デザイン面ではブラック家のものとよく似ているのだ。本作ではリタと弟のコーヴァスが、レストレンジ家の最後の子だと紹介されていたが、『ハリー・ポッター』シリーズまでレストレンジ家が関わっているということは、今後一家の血筋が絶えない理由が描かれることが期待できる(もっと言えば、『ハリー・ポッターと呪いの子』でベラトリックスとヴォルデモートの娘デルフィーニが登場するので、レストレンジ家はすべてのシリーズに関係していることになる)。

 余談だが、劇中で語られたレストレンジ家の物語に混乱が生まれるのは、リタの父も弟も同じ名前であることが原因の1つだろう。POPSUGAR Entertainmentなどによれば、父の方のコーヴァスは4世、リタの弟のコーヴァスは5世ということになる。

みぞの鏡

 ダンブルドアがゲイであることは有名である。2007年にニューヨークで行われた朗読会で、ローリングは、若い頃のダンブルドアがグリンデルバルドに恋愛感情を持っていたことを明言している。『黒い魔法使いの誕生』公開前には直接的な同性愛描写がないと報じられ、ファンから落胆の声もあったが、蓋を開けたところ、“みぞの鏡”という最も美しい表現方法で2人の関係が描かれており、思わずため息が出た人もいたことだろう。みぞの鏡は、鏡の前に立った者の心からの願望をあらわにする鏡。『賢者の石』では、鏡を覗くハリーの背後に、死んだ両親であるリリーとジェームズが立っていた。言うまでもないが、“みぞの”は「のぞみ」を逆から読んだ名前で、英語では「the Mirror of Erised(desireの逆さ読み)」。『黒い魔法使いの誕生』でのシーンからは、アリアナの死をきっかけにグリンデルバルドとの関係が破綻した今でも、心の奥には彼への想いが眠っているダンブルドアの恋心の強さが伺える。ちなみに、鏡に映った青年時代のダンブルドアを演じたのはトビー・レグボで、同じく青年期のグリンデルバルドを演じたのはジェイミー・キャンベル・バウアー。この2人は、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』でも同役で登場しており、さらにバウアーは、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』でジョニー・デップと共演している。


 『ハリー・ポッター』シリーズと『ファンタスティック・ビースト』シリーズでは、同じ魔法界とはいえ様々な違いが出てくる。もはや子ども向けではなく、大人も混乱しそうなストーリーとなっているが、その中でも1番の違いを感じたのが、ニューヨーク、ロンドン、パリと3つの実在する場所が劇中で登場すること。『ハリー・ポッター』シリーズの場合、ホグワーツ魔法魔術学校や禁じられた森、ダイアゴン横丁、魔法省本庁、ゴドリックの谷などたくさんの場所へ冒険に出かけたが、架空の場所ともあり視覚的な特徴がそれぞれにあったように思う。さらに、学生なので主にイギリス国内のことしか登場しない。

 一方、『ファンタスティック・ビースト』では、ニューヨーク、パリの魔法省など魔法界ならではの場所が出てくるとは言え、実際に存在する街並みも登場する。それらは『ハリー・ポッター』シリーズと比べれば特徴的な部分が少なく、うっかり目を離すと置いてけぼりを食らいそうになる人もいるかもしれない。本作を鑑賞するにあたって、心の隅に置いていてほしいのは、物語がどの場所で進んでいるかと、各キャラクターが発するセリフを一文字たりとも聞き/見逃さないこと。『ファンタスティック・ビースト』の冒険は、ファイアボルトばりに畳み掛けるようなスピードで進んでいく。さすが、創造主ローリングの手から直接生まれた世界。もしかすると『ファンタスティック・ビースト』シリーズは、『ハリー・ポッター』とともに成長した大人たちのための物語なのかもしれない。

(文=阿部桜子)

■公開情報
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
11月23日(金・祝)全国公開
監督:デヴィッド・イェーツ
脚本:J・K・ローリング
プロデューサー:デヴィッド・ハイマン
出演:エディ・レッドメイン、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドルほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
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Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights (c)J.K.R.
公式サイト:fantasticbeasts.jp

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