松田龍平のセリフに込められた“人生を取り戻す”ヒント 『けもなれ』晶と京谷の別れが意味するもの
だが、その信頼を築く一歩となる、本音を言い合うということそのものが難しいのだ。本音こそ、マイク付き監視カメラの前ではなかなか言いにくい。あのオフィスの監視カメラは、いつでも録音・撮影・発信のできる世間を具現化したようなものだ。うっかり本音など話せば、どんな形で広がるかわからない緊張感の中で生きていることを痛感させられる。言いたいことが言えない。でも、言わないといいように使われる。言いたい放題な人の声ばかりがこだまし、その尺度の中で生きることを迫られる。そんな苦々しい社会で自分の人生を生きていくのは、どうしたらいいのか。
そのヒントは、余計なことを言って京谷に殴られ、朱里(黒木華)にビールをかけられ、リアル炎上を引き起こした恒星が放った「誰のために……いや、違うか。俺が言いたくて言った」というセリフに隠されていそうだ。晶のためについあれこれ言ってしまったり、兄の問題に手を出してゆすられる結果となった恒星も、奔放に生きているように見えて、実は自分の人生を取り戻そうとしているひとりだ。
家族のため、恋人のため、会社のため……と、私たちは周りの何かの期待に応えたくて自分を繕う。ときには本音を隠さなければならない場面も。だが、そればかりではいつしか「そういうもんでしょ」と自分のやりたい気持ちより、やらなきゃいけないことをこなす日々になってしまう。誰かのために生きられない人生など、味気ない。けれど、自分のしたいことだという覚悟がなければ、意味がない。その覚悟を本音で話せる相手を探すことそのものが人生の醍醐味だ。もちろん相手との信頼が生まれるまでは、言葉を選ばなければならない。仮に自分が大きな声を出せば元気が出るからといって、相手もそうではないと肝に銘じることもそうだ。自分と同じくらい、他者の考えを尊重し、お互いを知り合う。そのプロセスこそ「愛って?」という京谷の問いの答えになるのではないか。
(文=佐藤結衣)
■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/