柄本佑×中野裕太『ポルトの恋人たち~時の記憶』対談 「想像がつかないことをやるのが楽しみ」

柄本佑×中野裕太『ポルトの恋人たち』対談

中野「呼吸と共にものづくりをしている」


ーー撮影中、「飯押し」によって監督が反省文を書いたというエピソードがあったそうですね。

中野:監督、反省文書いたの? ペニシェで撮影をしたときに、別の場所で待機しているプロデューサーのロドリゴ(・アレイアス)が監督に対して電話でかなりの勢いで怒鳴っていたところには出くわしました。

柄本:めちゃくちゃぶちぎれてました。

中野:もう、ぶちぎれ。

ーーランチをそれほど大事に?

中野:そう。朝からレストランのスタッフが準備してくれていて、ロドリゴは、そのスタッフさんたちも映画のスタッフなんだよというのを言いたかったんだと思うんです。現場の中でミスコミュニケーションがあっただけで。朝から現場に来て、ものづくりに直接関わっているわけではないけど、僕たちのために野菜を洗って切って朝の仕込みから現場の横でずっとやってくださっているわけです。美味しいご飯を提供してみんなによく仕事してもらおうとやっているのに、そのご飯は食べないとってなったのでしょうね……。

ーーほかにポルトガルでの撮影で驚いたエピソードはありますか?

柄本:そうだな~。あと、僕たちが荷物を持って広場に帰ってくるシーンで、撮影が始まる寸前に豚が逃げ出して、みんなで豚を追いかけました(笑)。

中野:中世的だったよね。豚を追いかけるなんて現代ではあまりない。

柄本:豚がまた、助監督の右足にぶつかったんですよ(笑)。バーンと飛ばされて。豚の脱走劇はすごく面白くて、忘れられないです。誰かカメラ回さないかな~って思っていました。

ーーその豚は撮影用に?

柄本:そうです。ちょうどテストが始まる「よーい」のタイミングくらいで脱走。「ブヒー!」と。すごかったんです、その時の豚の躍動感たるや、スローで覚えています。映画作り、ものづくり全般ですけど、そういう時に人間味が見えてくるのが、やっぱり面白かったです。ポルトガルの人たちはそういう時、走らないんです。こういうときだから、こうするということがない。普段のスピードと変わらずに映画の撮影にすんなりと入ってくる人たちなんです。

中野:それは確かに、いい見本でした。本当に呼吸と共にものづくりをしている。朝、歯を磨いて、顔を洗って、豚を追いかける。そのまんまで。

柄本:想像の地続きだよね。どこかで「いくぞー!」とエンジンかけて映画を作るというより、散歩をしているようなスピード感で、生活リズムの延長線上に撮影行為があるというか。だからもちろん時間はかかって当然でしたけど、日本人の監督が怒って「急げ急げ」と鞭をたたいてきた時に、そこを崩さずに同じ熱量でやっていてくれたのが、僕としては非常に楽でした。自分のリズムは確実に守って、素敵だなと。

中野:映画が文化として、芸術として根付いているヨーロッパならではなのでしょうね。日本人には、ONとOFFみたいなのがあるけど、あっちの人はずっと生活の中に政治があって宗教があって芸術もあるから。当然のようにそれがあるという感覚なのかなと感じました。

柄本:芸術に対して日常的な感覚があるのかなと思います。常に目の前にあるから、それに対して特別なものという認識ではない。映画に限らずですけど、そういうおおらかさは感じましたね。

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