キャリー・ジョージ・フクナガは『007』の監督にふさわしいのか? その作家性と新作の行方を占う

 さらに変更、または軽減されると予想できるのは、メンデス監督が高めた、英国復権の保守的要素ではないだろうか。メンデス監督も社会問題を描いてきた作家だが、その視点はどちらかというと国内のマジョリティ側から眺めた問題意識の方が強い。対してフクナガ監督は、常にグローバルな視点で世界の社会問題に目を向け、さらに移民問題が原点となっている作家だ。そんな彼が、EUを離脱することを決定したイギリスをどのように眺めているのか。その姿勢が、ジェームズ・ボンドを現実的な世界に引き戻すのではないだろうか。そして、スパイ組織の暴力性や、その中で追いつめられる弱いボンド像も見られるように思える。

 これらはあくまで、フクナガ監督の作風を中心に導き出した予想でしかない。だがいずれにせよ、フクナガ監督の作品群からは、シリーズに新しい風を吹き込むことが期待できるポテンシャルを感じることは確かだ。それを活かすには、彼の作家としての自由を束縛しないことが鍵であろう。フクナガ監督を選択した『007』、果たして吉と出るか凶と出るか。それすらも、作品を観るうえでの楽しみとなり得るだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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