安藤サクラは戦争とどう向き合った? 『まんぷく』が描く“日常”の中で生きること

『まんぷく』が描く“日常”の中で生きること

 NHKの連続テレビ小説ではしばしば、戦争や震災といった生活を大きく揺るがす出来事が起こる。例えば、『あまちゃん』では東日本大震災が、『花子とアン』では関東大震災が、『わろてんか』では太平洋戦争が、それぞれの作品の中でいろいろな形で描かれてきた。

 そして、現在放送中の『まんぷく』でもいよいよ戦争の描写が色濃く映し出されていく。放送間もない頃からすでに、日中戦争や真珠湾攻撃などが起こってきたものの、大阪も安全ではなくなるとして、福子(安藤サクラ)たちはついに疎開を決意。萬平(長谷川博己)の親戚のいる上郡に移り住むことに。

 先週の萬平の憲兵による拷問シーンしかり、『まんぷく』ののどかな雰囲気に暗い影が漂う。しかし、そんな状況下でありながら福子や萬平たちから完全に幸せが消え去ってしまったというわけではなかった。疎開先で煮込みうどんを皆で囲んで食べたり、萬平が散歩の途中で小さな虫を見つけたり、疎開先の子供たちと一緒に魚釣りをしたり、福子と萬平で山菜取りに出かけたり。ささやかながらも楽しみを見つけてきた。

 福子たちだけではなかったかもしれない。当時の市井の人々の中には、程度の差こそあれ、こんな風にできるだけ自分たちのもとから、“日常”が離れないように試行錯誤してきた人たちがいたのだろう。たとえどれだけ米軍の脅威が差し迫ろうとも、“日常”を維持して、生き抜くこと。ひょっとすると当時の人々のひそかな戦い方の一つだったとも言えよう。煮込みうどんを食べるシーンや、焼いた川魚を食べるシーンからも分かるように、食べるという、生きていく上で欠かせない要素がちゃんと描いてある。『まんぷく』では、戦時下であっても可能な限り“日常”を繋ぎとめておくことで、“人間らしさ”を失わずに生きていく人々の懸命な姿に光を当ててきた。

 ただ、萬平は自分の不甲斐なさにいら立ちを示す。疎開先にも米軍の攻撃が及んだとき、持病を抱えていて戦えないことに情けなさを感じてしまう。「情けない。畜生! 情けない! あぁ、お義母さん……すみません。福子、申し訳ない! 僕は何もできない。何もできない!」「あんな病気になって、こんな体で。赤紙が来たのにまた……。皆、お国のために働いているのに、それなのに僕は……」。福子や鈴(松坂慶子)とは違い、赤紙が来たので疎開生活などせずに、今頃戦地に赴いていてもいいはずなのに、何もできない自分。無力感が萬平を苦しめる。思えば、萬平の発明家としてのモットーは“世の中の役に立つこと”だった。これは戦争であってもひょっとしたら、萬平にとっては同じなのかもしれない。“役に立てない”という感情はそれだけに一層萬平を追い込むのだろう。

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