ヨアキム・トリアー監督が明かす、『テルマ』でホラーに挑戦した理由 「自分の殻を打ち破りたかった」
「全く新しい視点でホラー映画を作ることができた」
ーー今回の『テルマ』からはブライアン・デ・パルマの『キャリー』を中心に、様々な作品からの影響を感じました。
トリアー:違うジャンルに挑戦したかったとはいえ、僕は何を撮るにしても“パーソナル”でないとダメなんだ。テーマや画、キャラクターなど、何か自分と繋がりがないといけない。それと同時に、僕自身がヒッチコックやデ・パルマ、今敏などのファンタジックな日本のアニメから大きな影響を受けているから、そういった要素が自然と作品の中に出てくる部分はあると思う。今回は新しいスタイルを試してみようというところからスタートしたんだけど、作業を進めれば進めるほど、自分が今まで描いてきた実存主義的な“個”の問いかけや、家族の関係に立ち戻ってしまうところがあったかもしれないね。とはいっても、全く新しい視点でホラー映画を作ることができたと思っているよ。
ーー確かに今回の『テルマ』を含め、あなたの作品には「孤独や生きづらさを抱えた人間が主人公で、家族を中心とする他者との関係性が描かれる」という共通性がありますよね。『テルマ』に関しては意図せず結果的にそうなったと?
トリアー:最初は本当にストレートなB級ホラーを作りたかったんだけど、脚本の開発段階や役者と一緒に作業をしていく中で、これは信憑性のあるキャラクターで人間の心理を描かないと成立しないと実感したんだ。例えば、テルマの父親であるトロンをB級映画的なただの悪い人間にしてしまったら、作品の面白さが半減してしまう。娘に対する愛情がベースにある上で間違った行動をしてしまうわけで、だからこそ人間的でより怖い存在になる。ただのモンスターであれば全く共感できない存在で終わってしまうからね。僕の「ストレートなB級ホラーを作りたい」という当初の目的が失敗したことが、観客に「何か違ったホラー映画だな」と感じてもらえることに繋がってくれればいいなと思うよ。
ーー近年、ハリウッドを中心にホラー人気が再燃しているように思いますが、この流れにはどのような見解を持っていますか?
トリアー:確かに今、ホラー映画は大ブームになっているよね。特にレトロホラーがブームになっているような気がする。正直、僕はこの作品がそのブームの中の1作品だと思われてしまうことには不安があったんだ。いい作品ももちろんあるけれど、そうでない作品もたくさんあるからね(笑)。ただ、レトロスタイルのホラー映画はものすごく“映画的”なんだ。映画はホラーというジャンルにおいて、舞台や文学では決して表現できないような表現方法ができる。それはビジュアルコンセプトがベースになっているところが大きいという部分にも繋がるし、こういう作品がもっと増えてもいいんじゃないかとも思っているよ。
ーーちなみに前作『母の残像』はあなたにとってハリウッド進出作になったわけですが、今回またノルウェーに戻って作品を撮ったことには何か理由があるのでしょうか?
トリアー:もともと今回のアイデアは、アメリカにはたくさんあるスーパーナチュラル系の作品を、全くそういった作品がないノルウェーで作ってみたいという思いから始まっている部分もあるんだ。森林、氷、雪、建築、オペラハウスなど、作品における重要な要素をどこでどう撮るべきか、ノルウェーであれば自分の中にもたくさん知識があったし、ノルウェーのおとぎ話をうまく折り込みながら、遊びの気持ちを持って、ノルウェーの観客にとっても新しいと思ってもらえる作品にしたかった。完全なクリエイティブ・コントロールを自分が持ちたかったのもあるけどね(笑)。とはいえ、今後またハリウッドで撮る可能性だってもちろんあるよ。物語が必要としている場所に行くだけだから、日本で撮ることもあるかもしれないね。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『テルマ』
10月20日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
出演:エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンス、ヘンリク・ラファエルソン、エレン・ドリト・ピーターセン
監督・脚本:ヨアキム・トリアー
配給:ギャガ・プラス
原題:Thelma/2017年/ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン/カラー/シネスコ/5.1ch デジタル/116分/字幕翻訳:松浦美奈
(c)PaalAudestad/Motlys
公式サイト:gaga.ne.jp/thelma