平沼紀久監督が語る、『DTC-湯けむり純情編- from HiGH&LOW』制作秘話 「DTCだからこそ“外に出す”ことができた」

『DTC』平沼監督インタビュー

必然性のあるミュージカルに

ーー他にも、劇中歌では、一世風靡セピアを彷彿させる『IIKOTO』のインパクトも大きいですね。『修羅BANBAN』もそうですが、最近あまり聴かない曲調をあえて採用しています。

平沼:時代ですよね(笑)。でもファッションもそうなんですけど、時代って回っていくのかなとも思っていて。もしかしたら、一世風靡のスーツが真っ黒になって、さらに激しいダンスを踊ってるのがEXILEなのかもしれないし。

ーーその視点は斬新ですね。

平沼:そういうのを抜きにしても、一世風靡のあの時の熱量って今の世代にとって新鮮に見えると思うんですよ。今『東京ラブストーリー』の再放送を見て、若い世代が反応するのと一緒で。そんな熱量をあの5人から放出したかったんです。

ーー今回も音楽に関しては盛りだくさんですね。

平沼:今回、劇伴は「ANOTHER」というチームで、Mitsu.J、大西克己という2人でやっているんですけど、実は同級生の時に組んでいたバンド名が由来になっているんです。学園祭の時に講堂でB’zとかを演奏していたんですよ(笑)。

ーーそうなんですね。

平沼:Mitsu.Jは、これまでも『HiGH&LOW』だと『Do Or Die』の作曲や、三代目の『Unfair World』も手がけて、大西も作曲家として色々なアーティストを手がけています。少し前に同窓会へ行った時に、3人でワイワイ飲んで「なんか3人でやりたいね」と話していて、今回映画を撮ることになったので、「じゃあ2人にお願いしよう」と。まず、LDHの音楽性を理解してくれる人が適任だと思いますし、いつも音楽を監修してくれる佐藤達郎さんも、「この作品なら、アリですね」って言ってくれて実現したんですけど。個人的にはあんまり劇伴っぽくない曲がほしかったんですよね。そっちの方がLDHの映画らしいというか。

ーーなるほど。

平沼:冒頭のミュージカルシーンで流れる『トラフィックライト』もMitsu.Jと話し合って作りました。恋愛ってある意味信号機みたいだね、というテーマで詞を書いたんです。ずっと中途半端な黄色でいるわけにも行かないし、赤で止まり続けてもダメだし、青で突っ走ってもいけない。黄色でずっと躊躇しているのが宮崎で、そこを後押しするのが青で突っ走るDTC。そんな風に色々な人生を表現できたらいいなと思って、この曲は作りましたね。

ーー本作の主題歌、オープニングテーマ、挿入歌も、とても映画の雰囲気にマッチしていますね。

平沼:実は最初、DTCの3人で曲を歌っているという案もあって、『100万回のありがとう』という仮タイトルで僕が作詞して、レコーディングまでしたんです。でも皆で聴いて「いいんだけど、いい雰囲気のエンドロールで流れてズコってなりたくないよね」と、ここは歌うプロに任せようという話になりました。そして、DOBERMAN INFINITYに『100万回のありがとう』のデモを渡して、映画も観てもらって「こういう感じで作ったけど、後は任せた!」と。そういう経緯で生まれたのが『YOU&I』です。完成した曲を聴いたらメチャクチャ良くてね。

ーー彼らの新たな代表曲になりそうなキャッチーな曲です。

平沼:DTCの3人もすごく気に入ってくれて。「俺たちが歌っていたら、舞台挨拶でも披露しなきゃいけなくなってた! あぶねえ!」なんて冗談も言ってましたね(笑)。

ーーそれはそれで、観たかったような(笑)。

平沼:SHOKICHIも映画を観た上で曲を作ってくれたし、その前から「男子中学生のわちゃわちゃ感のある『男はつらいよ』を作りたいんだよね」と話していたところ、「3人がフーテンな感じで色んなんところに行く『Futen Boyz』ってどうですか?」と提案してくれて、徐々にイメージが固まっていって、出来上がった曲もメチャクチャ良くて。『BEPPING SOUND feat. HIROOMI TOSAKA』は、HONEST BOYZのメンバーが「どこかに使えたら!!」と曲を持ってきてくれたんです。DTCがSWORDを出るきっかけって結構くだらないじゃないですか、道中でカワイイ女の子に出会えるんじゃ……みたいな期待もあって。そこに『BEPPING SOUND』が流れるのが、すごく面白いと思ったんですよね。

ーーちなみに、本作は冒頭とクライマックスで同じシーンが2度繰り返される構造じゃないですか。今年の大ヒット邦画を思い出してしまったんですよ。

平沼:『カメラを止めるな!』ですよね。もちろん観ていますよ。この手法って「シベリア少女鉄道」だとか、舞台ではよく使われますよね。僕も舞台出身なこともあり、舞台は好きで、そういう構成も好きなんですけど、構成より今回はどちらかというと「必然性のあるミュージカルをやりたい」という気持ちが大きいですね。「はいここで歌です、はいここで踊りですよ」とシーンごとに明確に分かれるようなものでなく、登場人物が歌わざるを得ないようなシチュエーションにするにはどうすればいいのかと考えて作ったのが今回のオープニングなんです。『IIKOTO』のシーンもそうですけど、全編通して「ミュージカルが急に出てきた」とならないものにしたかったんです。

ーーお忙しいとは思うんですが、他にも最近面白いと思った映画はありますか?

平沼:『勝手にふるえてろ』(17年・大九明子監督)ですね。『DTC』とも共通する面白さがあるんじゃないかな。ベクトルは全然違いますけど。DTCはアッパーで、あの女の子を取り巻くのはローな感じじゃないですか。でも話しているようなことは、通じるものがあるんじゃないかな。『勝手にふるえてろ』は、すごく面白かったですね。

ーーなるほど。さきほど舞台の話も出ましたが、今でも劇場に足を運んだりも?

平沼:そうですね。最近嬉しいことに、様々な作品を書かせていただいているので、アウトプットをしたらインプットをしないと、自分がどんどん枯れていってしまうというか。どんな映画でも舞台でも、時間が空いたら観ようと思いますし、その中でも面白いと感じたら何度も観て勉強したりもしています。俳優だけをやっていた時は「いい演技してるな」だったり、脚本もやるようになったら、ストーリーや構成を中心に観るようになったりして。そして監督を経験したことにより、「これどうやって撮ってるんだろう?」とか、「これ何日くらいで撮ったのかな」みたいな視点も考えるようになりました。そうなると1回だけじゃ理解が追いつかないという(笑)。

ーー『HiGH&LOW』の世界が広がることで、平沼さん自身の視点も広がっているという。

平沼:そうですね。脚本だけじゃなくて監督もやったことは本当に勉強になりました。全体を見通さないといけないですし、小さなことでも自分が決定していかないといけない。他にも、脚本でうかつに「夕日」って書くのやめようと思いましたね(笑)。夕日のシーンを作るのって超大変なんですよ! でも渡辺啓がすぐ「ここで夕日をバックに」って書くんですけど(笑)。脚本の上では、そのシーンもすぐ想像つくんだけど、撮るのは超大変ですね。

ーー確かに(笑)。

平沼:これは「監督やらないとわからないこと」あるあるでしたね。これまでも、色々なスタッフさんたちが、僕らの脚本をいかに映像にするかと、一生懸命やってたんだなと思い知りました。今回も『HiGH&LOW』の美術をいつも担当している橋本創と一緒にやったんですけど、「ノリちゃんね、いつも結構すげーこと書いてるんだよ」って言われて(苦笑)。今回もいろんなアドバイスを貰って、「こうしよう、ああしよう」と皆で意見を出し合って作っていったので、アイデア満載で面白い作品になったと思います。本当に監督は全部決めないといけないし、全部自分の責任になってくる。脚本は今度からちょっと気をつけて、うかつに雨とか振らせないようにいしょうって思うけれど、うかつに書くから面白いって部分もあるんですよね(笑)。そのバランスは、どこかで割り切ってやっていかないといけないのかな。でも監督をやらせてもらったことで、本当に得るものがあったし、すごく世界が広がりました。HIROさんには感謝しかないですね。

(取材・文=藤谷千明)

■公開情報
映画『DTC -湯けむり純情篇- from HiGH&LOW』
全国公開中
企画・プロデュース:EXILE HIRO
監督:平沼紀久
脚本:渡辺啓、福田晶平、上條大輔、平沼紀久
出演:
山王連合会…[DTC]山下健二郎(ダン)、佐藤寛太(テッツ)、佐藤大樹(チハル)、鈴木伸之(ヤマト)
SMG…廣瀬智紀(MARCO)、松田凌(COSETTE)、西川俊介(LASSIE)、西村一輝(HEIDI)
達磨ベイビーズ…水野勝(風太)、田中俊介(雷太)、守屋光治(阿形)、井澤勇貴(吽形)
縦笛兄弟…八木将康(カニ男)、天野浩成(たて笛・尾沢)
旅館「森田屋」の女将…笛木優子(森田マリ)
番頭…駿河太郎(宮崎有起)
マリの娘…新井美羽(森田メグミ)
企画制作:HI-AX
配給:松竹
製作:『HiGH&LOW』製作委員会
制作:イメージフィールド
(c)2018「HiGH&LOW」製作委員会
公式サイト:http://high-low.jp/movies/dtc/

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