『健康で文化的な最低限度の生活』最終話は“松本まりかオン・ステージ”に 吉岡里帆が導いた母娘の姿

『ケンカツ』吉岡里帆が導いた母娘の姿

 どうやらえみるが調べたところ、梓も施設で過ごした経験があるようだ。彼女は「なにが幸せか分からない」とまで言い放つ。梓に会うためにハルカが行方知れずとなった場面でのえみるの必死の訴えは、これまでで最も鬼気迫るものであった。しかしそれでいて優しい。梓より先に涙を流したことが、えみるが誰よりも梓に寄り添おうとした証だろう。

 母娘の再会の場面では、自身の置かれた状況を省みず、母のことを心配するハルカの姿が印象的だったが、そんな彼女に梓は“母として”向き合い、「ごめんね」と口にする。すると、これまでどこか表情の硬かったハルカの瞳からも涙が溢れ出す。ようやく、本当の意味での“母と娘”の関係になったことで、子供のようだった梓は母親の顔に、そして、大人のように振る舞わなければならなかったハルカは、子供らしい顔を見せたのだ。

 時同じくして、えみるが向き合っていたもう一組の親子(父娘)だが、麻里は、父が出ていってから、病気の母と2人で厳しい生活を強いられてきたのだという。しかも、当時役所に相談したところ、「病気でも働ける」と、厳しい対応も取られたことがあるという。この経験や、現在の生活のままならなさが、子供を産むか産まないか悩んでいる理由なのだ。

 それを知った半田(井浦新)は、自ら麻里のもとへ赴き、彼女たちの生活をサポートすることができるかも知れないと訴える。第9話で、彼の過去の苦い経験も明かされたが、それが活きての、この発言だろう。これで麻里が出産の意思を固めるということは、文字どおり、生活保護が“命を守る、最後の砦”だと端的に示していることにほかならないのだ。

 この最終話のラストでは、麻里の恋人役としておばたのお兄さんが登場。何かネタでも放ってくるかと思ったが、さすがに最終回なだけに、それはなく。本作にしては珍しく出落ち感は否めなかったが、湿っぽくならない最終回に、彼が一役買ったのは間違いない。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■放送情報
『健康で文化的な最低限度の生活』
出演:吉岡里帆、井浦新、川栄李奈、山田裕貴、小園凌央、水上京香、安座間美優、谷まりあ、鈴木アメリ、内場勝則、徳永えり、田中圭、遠藤憲一ほか
原作:柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』連載中)
脚本:矢島弘一、岸本鮎佳
監督:本橋圭太、小野浩司
プロデュース:米田孝(カンテレ)、遠田孝一(MMJ)、木曽貴美子(MMJ)、本郷達也(MMJ)
制作協力:メディアミックス・ジャパン
制作著作:カンテレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/kbss/index.html

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