アニメーションはふたたび時代を体現するジャンルへ 今夏アニメの“子ども”と“動物”の意味を考察
ミッキーマウスの子どもたち
……というように、以上は、いまだ仮説的な論点の提示にすぎないが、今夏話題の3本のアニメーションに見られる動物と子どものイメージの検討からも、現代のアニメーションが直面している巨大なパラダイムシフトの片鱗が垣間見られるように思われる。余談ながら、アメリカの著名な映画研究者ミリアム・B・ハンセンは、その浩瀚な遺著『映画と経験』(法政大学出版局)のなかで、ディズニーのミッキーマウスについて先駆的な論評を残したヴァルター・ベンヤミンについて論じている。まるで人間の子どもがネズミという動物と一体化し、しかも現実の物理法則から過激に逸脱して動き回るミッキーという「クリーチャー」に対してベンヤミンが見いだした本質を要約するハンセンのつぎの言葉は、まさにここで述べてきたようなアクタント性を象徴しているようにも読める(実際、ハンセンもまた原形質に言及している)。「生命を与えられたちいさくて多才な被造物(クリーチャー)のもつ魅力は──さらに、こうしたい謳い文句はミッキーだけに限定されるものではない──人間と動物、二次元と三次元、肉体的なエネルギーと機械的なエネルギーの境界を曖昧にするという、この被造物の異種混交的(ハイブリッド)な特徴にその多くを負っている。[…]身体をめぐるベンヤミンの省察の視界のうちにミッキーマウスが入ってくるのは、そのサイボーグ的性質によってである」(竹峰義和、滝浪祐紀訳、354-355ページ、訳文表記を一部改変した)。『未来のミライ』や『ペンギン・ハイウェイ』のアクタントたちは、このミッキーマウスのハイブリッド性からまっすぐにつながっている。
かつて20世紀のはじめ、ベンヤミンや今村太平といったアニメを論じたマルクス主義者たちは、アニメーション(漫画映画)に資本主義社会の物象化と共通する要素を発見したが、よりグローバルな規模の「資本主義リアリズム」(マーク・フィッシャー)に絡め取られるつつある21世紀社会にあって、アニメーションはまたふたたび時代を体現するジャンルになろうとしているのかもしれない。
■渡邉大輔
批評家・映画史研究者。1982年生まれ。現在、跡見学園女子大学文学部専任講師。映画史研究の傍ら、映画から純文学、本格ミステリ、情報社会論まで幅広く論じる。著作に『イメージの進行形』(人文書院、2012年)など。Twitter
■公開情報
『ペンギン・ハイウェイ』
全国公開中
出演:北香那、蒼井優、釘宮理恵、潘めぐみ、福井美樹、能登麻美子、久野美咲、西島秀俊、竹中直人
原作:森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫刊)
監督:石田祐康
キャラクターデザイン:新井陽次郎
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
音楽:阿部海太郎
主題歌:「Good Night」宇多田ヒカル(EPICレコードジャパン)
配給:東宝映像事業部
制作:スタジオコロリド
(c)2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
公式サイト:penguin-highway.com