小野寺系の『ちいさな英雄』評:監督たちの才能とスタジオポノックの未来を読む

小野寺系の『ちいさな英雄』評

 30代後半で宮崎監督が『ルパン三世 カリオストロの城』を手がけたとき、彼は世界の経済が株式で動くようになった時代に、いまどき泥棒がお宝を盗むような、スケールの小さな内容は時代遅れだと考えたという。だからエンディングにおいて銭形警部が「あなたの心です」と語るように、最終的に無形のものを盗むというかたちに至ったはずである。監督として何を描くべきか、どうすればより普遍的で意義のある作品を作ることができるのか。作品の内容を統括する監督には、そういうヴィジョンや哲学が必要なのだ。それがなければ、いかに優秀なスタッフが集まったとしても、その仕事は最高の結果を生み出してはくれない。

 であれば、それを統括できる才能を見つけ出し、連れてくるのがプロデューサーの仕事だ。少なくとも個人的には、観客にとってジブリの魔法がまだ効力を保っている限られた時間を費やして、悠長にスタジオポノック内の才能を、劇場公開作という大舞台でテストしている暇はないように思える。まだこのスタジオは、プロデューサーを含めて、自分たちの作品に対して客観的な目が持てないでいるのではないだろうか。何より、「大傑作を作って世界を仰天させてやる」という、多くのやる気ある映画人やアニメーターにあるはずの気概が、覇気が、野心が、熱いハートが、ハングリー精神が不足しているのではないだろうか。

 米林監督は、スタジオジブリで『思い出のマーニー』(2014年)を監督したときに、「僕は宮崎さんのように、この映画一本で世界を変えようなんて思ってはいません」と発言している。たしかに、映画一本で世界は変わらないかもしれない。だが、それを最初から諦めてしまって良いのだろうか。宮崎監督ですら、多くの観客やクリエイターに影響を与えながらも、「世界を変える」というところまではできてない。しかし、それを目指しているからこそ、「不世出」といわれるまでの高い領域に届き得たのではないのか。まず受け継ぐべきは、熱いスピリットであろう。

「あーそぼ、あーそぼー、小さな英雄あそぼー♪」

 木村カエラが景気よく歌うエンディングテーマにのせて、サワガニの兄弟、少年、透明人間が、観客に向かって手を振りながら、本作は終了していく。手を振るキャラクター以外の映像はCGで作られているため、キャラクターを差し替えればシステマティックに次の短編劇場を制作することができるだろう。西村義明プロデューサーによると、ポノック短編劇場は、短編作品を発表していく新たなレーベルとして立ち上げたのだという。

 新たな才能を発掘する場が増えることは喜ばしいことだ。しかし今回の短編劇場を見れば分かるとおり、歌やオープニング、エンディングの映像など、一見子ども向けに作られているように見えながら、実際には子どもの観客が大喜びするようなものを提供してくれないというサービス精神の欠如と、世界のアニメ巨匠監督のような芸術性を目指すようにも思われない方向性で、今後スタッフたちがローテーションするようなかたちで、ずっと作り続けられるのだとするならば、それはプロの態度でも芸術家の態度でもない。スタジオポノックには、まず観客のことを第一に考えてほしいし、その優れたノウハウを活かしながら、より正しい方向でアニメーション文化を振興することを期待している。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』
全国公開中
・『カニーニとカニーノ』
監督:米林宏昌/音楽:村松崇継/声の出演:木村文乃 鈴木梨央
・『サムライエッグ』
監督:百瀬義行/音楽:島田昌典/声の出演:尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎
・『透明人間』
監督:山下明彦/音楽:中田ヤスタカ/声の出演:オダギリジョー、田中泯
エンディングテーマ:木村カエラ「ちいさな英雄」(ELA/ビクターエンタテインメント)
プロデューサー:西村義明
企画・制作:スタジオポノック
スタジオポノック・日本テレビ・電通提携作品
配給:東宝
(c)2018 STUDIO PONOC
公式サイト:ponoc.jp/eiyu

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる