小野寺系の『ちいさな英雄』評:監督たちの才能とスタジオポノックの未来を読む

小野寺系の『ちいさな英雄』評

米林宏昌監督『カニーニとカニーノ』(18分)

 トップバッターとなるのは、『メアリと魔女の花』を手がけた米林監督による、川底に住むサワガ二の一家の物語を描く作品だ。鑑賞後に意外に思ったのだが、この作品が3作中で最も上映時間が長い。にも関わらず、これが最も印象に残らず内容が薄いと感じる。

 セリフは、ほぼ名前を呼び合うくらいしかないため実験的な印象もあるが、彼ら擬人化されたカニのキャラクターからは、マニュアル化されたような単純な感情しか感じられない。『メアリと魔女の花』の登場人物たちと同様、主人公たちは何か“それらしい”行動をしているが、そこに(擬人化された)人間の生(なま)の感情を感じることはなく、あたかもロボットの反応を見ているようなのである。そのため本作は、ドラマとしての価値を認めにくい。

 すでにマニュアル化され形骸化されたような演技や演出しか出てこないのは、おそらく監督がアニメ作品を通しての感情にしか興味が無いからかもしれない。そういう意味では、今回の3作品の監督のうち最も演出のキャリアがありながら、皮肉にもいちばん監督としての適性に欠けているのが米林宏昌監督だと感じてしまう。

 また依然として、ユーモアやサービス精神の欠如は深刻だ。本作のような冒険を描く作品であれば、最低限は観客をエンジョイさせてほしい。この作品に「面白い」、「楽しい」といえるような箇所が一つでもあるだろうか。快感も不快感もない。上映中はただ事務的な時間が淡々と過ぎてゆくのみだ。3作品中では比較的「子ども向け」の作品だから単純な内容になったのかもしれないが、単純だからとはいえ、内容が薄くて良いということにはならないだろう。もし本作が「子ども向け」だから「こんなもので良い」と思っているのだとすれば、あまりに子どもを侮り過ぎているのではないだろうか。

 そのわりに、不可解かつ不必要なシーンは多い。例えばサワガニの兄弟が岩に登ると、なぜかリアルに表現されたタヌキが飛び出してくる箇所があるが、この場面が作品にどのような寄与をしているのか答えられる観客がいるだろうか。高畑監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』へのオマージュだとしても、なぜそれをここで出してくるのか頭を抱えてしまう。こんな不満が出てきてしまうのも、その場面に面白さやユーモアといったものが全く欠けているからである。タヌキのリアルな動きを精巧に表現した作画作業は、全くの徒労としか思えない。

 最もがっかりさせられたのは、兄弟が巨大な敵に追われるスペクタクル・シーンだ。ここで目を疑ったのは、敵に追いつかれそうになって焦って泳ぐという最もスリリングな場面を、兄弟と敵それぞれを“別に”映した2つのカットに分け、その背景をスピード感のある流線で表すという演出だった。これでは彼らの距離感覚がつかめず、ドキドキも発生しにくい。なぜ最も盛り上げなければならない場面で、このように紙芝居的ともいえる演出を選択してしまったのか。手描きアニメの技術とリッチなアニメーションが“売り”であるはずのスタジオポノックの存在意義そのものを、監督自身が否定しているように感じられた瞬間である。タヌキのシーンに無駄な労力を割くよりも、ここに力を投入すればならなかったのではないだろうか。

 見どころとなるのは、CGを使ったリアルな水流であろうか。実写のように見える水面の描写が必要かどうかは賛否が分かれそうだが、複雑な形状をした沢で、水中の水の流れが手前と奥で違うなど、奥行きある立体的な動きをしているところは、実際の水中をよく観察しているという印象を持った。

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