『オーケストラ・クラス』ラシド・ハミ監督が語る、デプレシャンやケシシュから学んだ演出術

『オーケストラ・クラス』監督インタビュー

「本当に素晴らしい演出というのは目に見えない」

ーークラスのメンバーには音楽経験がほぼない子供たちをオーディションで選んだそうですね。

ハミ:今回はゼロから何かが生まれていく様子をカメラに収めたかったんだ。子供たちの中に音楽が生まれていく瞬間をね。それによって、観客の納得の度合いも変わってくると思ったんだ。ただ、やっぱりあの年頃の子供たちはやんちゃで、なかなか大変なことも多かったから、またすぐに子供が中心の映画を撮ろうという気にはならないね(笑)。

ーー移民問題や家庭内の問題に触れつつも、物語の展開としては、挫折したバイオリニストと異なる境遇の子供たちが大きな目標に向かってひとつになっていくという、非常にシンプルな作りになっていることが印象的でした。

ハミ:こういう話は大抵、演出過剰になったりドラマチックになったりしがちなんだけど、僕はとても“ピュア”なものにしたかったんだ。演出によってごちゃごちゃさせるのではなく、無駄なものを排除して自然な形で物語を紡ぐことを意識したよ。とはいえ、演出をしていないわけではないんだ。演出はしているんだけれど、演出していないように見せるというデリケートな作業に力を入れている。僕がすごく偉大な監督だと思っているアルノー・デプレシャンも言っていたことなんだけど、本当に素晴らしい演出というのは目に見えないんだよね。

ーーアルノー・デプレシャン監督の『キングス&クイーン』やアブデラティフ・ケシシュ監督の『身をかわして』には役者として出演されていましたが、映画監督として彼らから受けた影響も大きいんですか?

ハミ:映画制作において師を持つことは重要だし、自分には師匠がいるということを認知して、彼らに敬意を表することはとても大事だと思うんだ。今回の『オーケストラ・クラス』でいえば、ケシシュの最初の作品である『身をかわして』とオーバラップするところがある。“ゲットー”と“演劇”というのが『身をかわして』の要素だとすると、今回の作品ではその要素が“貧しい地区”と“音楽”と言えるんだ。映画監督としてはデプレシャンから学んだことが多くて、彼は僕にとってのメンター的な存在でもあるんだ。映画は伝達するものだと思うんだけれど、それは決して同じように模倣することではない。デプレシャンは映画でいろんな問いかけをする監督で、その答えは僕らがそれぞれ見つけていかなければいけない。彼が投げかけた質問に対して、どう答えるか。そうやって自分の道を見つけ出していくんだ。

ーー役者としてキャリアをスタートさせたあなたですが、監督業にはもともと興味があったんですか?

ハミ:僕はもともと役者ではなく監督になりたかったんだ。16歳の頃、あるきっかけで知り合ったケシシュに「将来監督になりたいからスタッフとして作品に参加させてくれ」と言ったら、「監督として役者に演技指導するためには、役者の気持ちがわかっていないとダメだから、まずは役者になれ」と言われて、『身をかわして』に出ることになったんだ。その後も役者としていくつかの作品に出演しているけれど、それはお金を稼げるから(笑)。役者として稼いだお金で自分のやりたい作品を作るという流れで、僕自身本当にやりたいのは監督なんだよね。

ーーそうだったんですね。ケシシュ監督の提案が功を奏したとも言えますね。

ハミ:確かにそうだね。役者は監督から「もうちょっと笑って」とか「もうちょっと悲しい顔をして」と言われても、そう簡単にできるものではない。自分が役者になってみてよく分かったよ。その気持ちや感情を役者が自然に出せるようなプロセスを作り出すのが、監督の仕事の醍醐味だと思うね。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『オーケストラ・クラス』
8月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
出演:カド・メラッド、サミール・ゲスミ
監督:ラシド・ハミ
脚本:ラシド・ハミ&ギィ・ローラン
製作:ニコラ・モヴェルネ
配給:ブロードメディア・スタジオ
2017年/フランス/フランス・アラビア語/102分/原題:La Melodie
(c)2017 / MIZAR FILMS / UGC IMAGES / FRANCE 2 CINEMA / LA CITE DE LA MUSIQUE – PHILHARMONIE DE PARIS
公式サイト:http://www.orchestra-class.com

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