子供たちと負け犬音楽家を引き寄せる“音楽”の力 『オーケストラ・クラス』は生々しいドラマを描く

 2015年、パリ19区にモダンなコンサートホールがオープンした。フランスを代表する建築家、ジャン・ヌーヴェルが設計したコンサートホール、フィルハーモニー・ド・パリはパリの新名所になったが、そこでは〈demos〉という子供向けの音楽教育プログラムを推進している。それは子供たちに楽器を教えて、フィルハーモニー・ド・パリで公演するというもの。そんなユニークな試みにヒントを得て制作された映画が『オーケストラ・クラス』だ。

 物語の舞台は、パリ郊外にある小学校。そこにバイオリン奏者のシモン・ダウドがやって来る。その小学校では〈demos〉に取り組んでいて、ダウドの仕事はオーケストラ・クラスを選んだ子供たちにバイオリンを教えて、学期末に予定されているフィルハーモニー・ド・パリでのコンサートに参加できるようにすることだ。しかし、バイオリン奏者の仕事にあぶれて、やむなく学校と契約したダウドにとって、オーケストラ・クラスで教えるのは生活費を稼ぐ手段でしかなかった。ダウドが音楽室に行ってみると、そこにいたのは騒いでばかりで人の話なんてまったく聞かない子供たち。そのほとんどが貧しい移民だ。ダウドはそんな子供たちを前にして途方に暮れる。

 大勢の人々が様々な役割を担い、ひとつの曲を演奏する。オーケストラは、まさに社会の縮図だ。オーケストラ・クラスに参加した子供たちは人種もばらばらだし、音楽家を目指しているわけでもない。一方、教えるダウドは子供たちを教えることに熱意なんて持ち合わせていない。プライベートでは離婚をしていて、一人娘と疎遠な孤独な毎日を送っている。寄せ集めの子供たちと負け犬音楽家。そんな両者を引き寄せるもの、それは音楽だ。

 学校から貸し出されたバイオリンでふざける子供たちの前で、ダウドが初めてバイオリンを弾く。その美しい音色に魅了され、息を呑む子供たち。そして、そこにアフリカ系の少年、アーノルドが現れる。アーノルドはバイオリンに夢中になり、家に帰っても練習を欠かさない。そんなアーノルドの演奏を聞いたダウドは、アーノルドに才能があることを知り、もっと練習するように励ます。母子家庭に育って父親の顔を知らないアーノルドと、娘と離れて暮らすダウドとの間に生まれる淡い絆。アーノルドの家を訪ねたダウドが、アーノルドの母親に誘われ、ラジオの音楽に合わせてぎこちなくダンスを踊るシーンが微笑ましい。

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