明らかに何かが変? 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の隠された魅力を徹底解説

なぜ狂気に身をゆだねるのか

 前述したように、トムはビルから飛び移るシーンにおいて足を骨折している。そしてそれは、ロンドンでの最初の撮影であったらしい。その後数か月の間トムは入院し、マッカリー監督はその間に脚本を練り上げ、全体の整合性をとることができたのだと語っている。ロンドンで塔をらせん状に上っていく表現も、『めまい』のイメージそのままだといえよう。「ある女性を登場させてほしい」というのはトムからの要望であったが、そこから本作は『めまい』の「ダブルイメージ」に引き寄せられていったのではないだろうか。『めまい』と大きく違う部分があるとすれば、本作の主人公が高所恐怖症のわけがないという点である。

 ここでの符合が偶然にせよ必然にせよ、マッカリー監督が複数のオマージュによって、ハリウッドの記憶とつながり、過去の亡霊を呼び出そうとすることで作品を補強する映画監督であることは間違いない。マッカリーが、劇中のマックスの娘に言わせたスピーチは、まさに過去の遺志を継ぐことで、より良い作品を目指していくという決意表明である。

 さらにマッカリーは本作において、実験的な映像をとり入れつつ、トム・クルーズの狂気の要求に応えながら、それを行っているのである。これもまた一種の常軌を逸した作品づくりだと思える。本作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』に隠されているのは、このように作り手によって折り重ねられた狂気であり、狂気を帯びることで過去の自分を超えて、才能を極限まで発揮することを選び取った者の覚悟だといえるのではないだろうか。そう、だからトム・クルーズとクリストファー・マッカリーは、相性が良いはずである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
全国公開中
出演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、ヴィング・レイムス、レベッカ・ファーガソン、アレック・ボールドウィン、ミシェル・モナハン、ヘンリー・カヴィル、ヴァネッサ・カービー、ショーン・ハリス、アンジェラ・バセットほか
監督・製作・脚本:クリストファー・マッカリー
製作:J・J・エイブラムス、トム・クルーズ
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:http://missionimpossible.jp/

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