永瀬正敏、日本映画界の大きな希望に 『パンク侍、斬られて候』『Vision』に見る映画俳優の姿
日本映画界において、“映画俳優”の草分け的な存在である永瀬正敏。そんな彼の出演作が立て続けに公開されている。奈良・吉野の森を舞台に、言葉や文化の壁を超えた人々の交流を描いた河瀬直美監督作『Vision』で穏やかな山守を演じていたかと思えば、続く石井岳龍監督作『パンク侍、斬られて候』では、甲冑に身を包んだサルに扮した姿を披露。彼に会いたければ映画館に行くしかない、いまがまさにその時である。
永瀬が河瀬作品に出演するのは、どら焼き屋の店長・千太郎を演じた『あん』(2015)、視力を失いゆく天才カメラマン・中森雅哉を演じた『光』(2017)に続く3作目で、今作では山間に暮らす山守の男・智を演じている。作品を並べてみて気がつくのは、演じたキャラクターがいずれも、いわゆる“職人”と呼ばれるものであるということだ。
相米慎二監督作『ションベン・ライダー』(1983)でデビューした永瀬は、テレビ作品に顔を見せる機会がありながらも、基本的に映画を中心に活動してきた。1989年に、ジム・ジャームッシュ監督作『ミステリー・トレイン』に出演してからは海外作品への参加も度々あり、作品の内容が気に入れば、メジャー/インディーズ、作品の規模、国内外問わず出演するというスタンスだ。それは2018年の現在でも変わらず、映画だからこそ彼の存在を見ることができるという状況は続いている。27年ぶりのジャームッシュ作品への参加となった『パターソン』(2016)では、短いシーンながらも円熟味のある静かな芝居で魅せたが、先述の『ミステリー・トレイン』の時の若々しさとはまた違い、多くの映画ファンがこの瞬間に立ち会うことをどれだけ待ち望んでいたことだろうか。
そんな映画俳優としての道を、まるで“職人”のように歩んできた永瀬だが、河瀬作品で演じる“職人”でも、その視線や手つきの一つに至るまで、その人物に流れる“血”を感じる。今作でも、フランス人エッセイストのジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)とともに彼のもとを訪れた花(美波)は、永瀬演じる智のことを「静かで、森のよう」と形容するが、まさにそこに生きる者の実在感を放ち、たんなる“山守役”ではなくその人物が纏う、そこに生きてきた時間をも体現しているのだ。