『スター・ウォーズ』がフィギュアの歴史を変えたーー『ボクらを作ったオモチャたち』が描く“神話”
Netflixで配信中のドキュメンタリー『ボクらを作ったオモチャたち』がめっぽう面白い。面白いというか、もう感動的と言っていい。おれは体の6割近くがオモチャでできている実感があるのだが、そういう人間からすると「ありがとう……!」と叫びながら床をのたうちまわりたくなる出来栄えだ。
『ボクらを作ったオモチャたち(原題は『The Toys That Made Us』)』は、その名の通りオモチャを巡って繰り広げられた開発者の奮闘や興味深いエピソード、名作とされるオモチャがどうやって社会に溶け込んでいったのかをまとめたドキュメンタリー作品だ。現在Netflixにて2シーズン全8話が配信中。ネタになっているオモチャはシーズン1が『スター・ウォーズ』『バービー』『マスターズ・オブ・ユニバース』そして『G.I.ジョー』、シーズン2が『スター・トレック』『トランスフォーマー』『レゴ』『ハローキティ』となっている。いずれもオモチャとキャラクタービジネスの発達史において、エポックとなった商品ばかりだ。
どのエピソードでも当時の関係者によって語られる内容は衝撃的なのだが、特にシーズン1エピソード1のスター・ウォーズ回は凄まじい。ジョージ・ルーカスはオモチャの発売に積極的だったのだが、オモチャのメーカーも20世紀フォックスも、誰も『スター・ウォーズ』が金の卵だと気がついていない。フォックスが声をかけたメーカーは皆製品化を断り、ようやく手を挙げたのがハリウッドから遠く離れたシンシナティの中堅メーカーであるケナーだった。
どうせなら世界観全体を再現したいケナーは当時のフィギュアの標準サイズである12インチよりも小さいサイズを選ぼうとするが、基準となる大きさがいまいち掴めない。社員から相談を受けたケナー社長のB・ルーミスはスッと握りこぶしを突き出し、「このくらいだ」と人差し指と親指を3と3/4インチほど開いた。これが『スター・ウォーズ』の、そして世界のアクションフィギュアの歴史を塗り替えた基準サイズのひとつ「3.75インチ」の誕生の瞬間だったのである。
アクションフィギュアのファンにとっては、もはや神話的と言ってもいい話だ。叩き上げでオモチャの世界を知り尽くした大柄なベテラン社長(あだ名が“クマ”)が、ソーセージのような指でスッ……と示したサイズが、その後のアクションフィギュアの歴史を塗り替えた……。すごい……いい話……。『ボクらを作ったオモチャたち』には、そんな神話のような瞬間に立ち会った人々がゾロゾロと登場し、なんでもないことのようにそれを語る。悶絶するしかない。
さらに言えば、シーズン1の構成が絶妙にうまい。というのも、エピソード1で取り上げられている『スター・ウォーズ』のフィギュアは、コンテンツとキャラクターの関係を永遠に変えてしまったと同時に、それ以前と以後では「アクションフィギュア」という商品の姿自体に不可逆の変化を引き起こした存在なのだ。『ボクらを作ったオモチャたち』のシーズン1は、その変化を追体験できる内容になっている。
重要なのは、『スター・ウォーズ』のフィギュアは初めて大々的に「服までプラスチックでモールドされたフィギュア」だったという点だ。そもそも20世紀も後半に差し掛かるまで、「人形遊び」は基本的に女の子のためのものだった。その流れを汲んでヒットしたのが、マテルの『バービー』である。そして、それまでの常識を覆す男の子向け人形玩具として1964年に現れたのがハズブロの『G.I.ジョー』だった。
『G.I.ジョー』の人気を受けて初めてスーパーヒーローをネタにしたのがアイデアルの『キャプテン・アクション』(1966年発売)である。これはマスクとコスチュームを変えることでスーパーマンやローン・レンジャーに変身するという商品だった。さらにこの路線を踏襲したのが1972年に発売されたメゴの『ワールド・グレーテスト・スーパーヒーローズ』。こういった初期のアクションフィギュアは、今のようにアメコミもネタにしていたものの、服が布でできていた。だからシリーズ内で素体を使いまわせるし、メーカーにとっては都合がよかったのである。しかもどの製品も12インチ前後の大きさがある。「巨大かつ布の服を着た男児向け着せ替え人形」が、『スター・ウォーズ』以前のアクションフィギュアだった。