サノスはなぜ単純な悪ではない? ダースレイダーの『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』評
HIPHOP MCとして活躍するDARTHREIDERが、話題の作品を取り上げる映画評連載。映画コメンテーターとしてもラジオやAbemaTVなどで活躍し、ハリウッド大作から日本映画まで、毎週劇場に足を運んでいるというDARTHREIDERは、映画史に残るヒットを記録している『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』をどう捉えたか。(編集部)
ウータン・クランというHIPHOPアーティストがいるのですが、そのメンバー全員が、自分の好きなヒーローの名前を名乗っているんです。メンバーのひとりであり、僕が好きなゴーストフェイス・キラーの別名が「トニー・スタークス」。彼の1stアルバムのタイトルも『アイアンマン』(96)で、自分自身のキャラクターとアイアンマンのキャラクターを融合させた歌詞がとてもユニークなんです。そんな背景もあり、アメコミでさほど人気がなかったアイアンマンにも妙な思い入れがあって、MCU第1作目となる『アイアンマン』(08)が公開されたときは、期待を持って劇場に足を運びました。以後、そこからMCU作品はすべて劇場で鑑賞しています。
この10年間、ヒーロー映画の枠を超えた『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』という傑作がある一方で、正直なところ『マイティ・ソー』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』や『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は全然乗れなかったんです。一度はMCUから離れそうになりながらも、『アントマン』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ドクター・ストレンジ』など、個人的な当たり作品がポイントポイントであり、この『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』までたどり着きました。
余談にはなりますが、MCUの中で最も興奮した瞬間が『アイアンマン2』でブラック・ウィドウがスタークの秘書として出てきたとき。彼女のリングでのトレーニングシーンが最高過ぎて何度も繰り返し観ています(笑)。
ジョス・ウェドン監督を手がけた『アベンジャーズ』1作目で、ヒーローを同じ土俵に立たせることは可能であることを証明しましたが、あの時点でさえヒーローたちのパワーバランスの調整は難しいものがあったと思います。劇中、ブラック・ウィドウが「飛べないやつもいる」と自虐ネタをぶっ込んでいるシーンもありましたが、「飛べるか飛べないか」で立ち位置がまったく変わってしまう。さらに、ヴィジョンやドクター・ストレンジといった「なんでもあり」なキャラクターも参加して、生身の人間たちは、いよいよどうなるのよと。『インフィニティ・ウォー』は各キャラクターの見せ場をきちんとさばけるのか、ハラハラしながら観ているところもありました(笑)。
でも、キャラクターの組み合わせ方、そして戦闘の展開の仕方と『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』に続き、監督のルッソ兄弟の手腕は見事としか言いようがありません。今回初対面となるマイティ・ソーとスター・ロードが「ひどい目にあった自慢」を行うシーンもありましたが、あれも『ジョーズ』などの古き良きアメリカ映画のいち場面を観ているようで面白かった。キャプテン・アメリカとロケット、アイアンマンとドクター・ストレンジなど、初対面のカップリングも絶妙でした。