サノスはなぜ単純な悪ではない? ダースレイダーの『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』評

ダースレイダーの『AIW』評

 今回、サノスが圧倒的ラスボスとして見れたのも、冒頭でハルクを肉弾戦でぶちのめしてしまうから。これまでパワーではハルクが1番という明確な序列があったからこそ、各キャラクターの強さのバランスがはっきりとしていました。そんなハルクがあっさりやられる。これはやばいぞと見せるやり方は非常にうまかった。本作は主要キャラクターの物語が描かれない分、敵役であるサノスの人間味が深く出ています。ただの殺戮者や悪魔ではなく、ある意味誰よりも生々しい人間らしさがある。このまま生物が増え続ければ破綻をきたすから、そのために全宇宙の生物の半分を消滅させる。サノスにとってはすべては宇宙の均衡のため。その結果、残されたものはよりよく生きることができる。

 そんなサノスの行き過ぎた完璧主義な性格が魅力的な悪役として成立している一方で、80年代からずっと続いている敵役の姿とも言えるだけに、新鮮さはあまりなかった印象です。『スター・ウォーズ』の敵役ファースト・オーダーにも同じことを思うのですが、あれだけ強大な力を持っているのに、「宇宙全体の調和」「宇宙を支配する」という発想がどうも人間の視点から抜け出ていません。人口という発想がそもそも宇宙における多様な生命の在り方への想像力を感じません。過激なリベラルとして再分配を目指してますが、『キングスマン』のように地球が舞台ならまだしも、その範囲として宇宙は余りにも広いので、そんなに心配しなくても良いのでは?と思ってしまいます。

 オルタナ右翼やキリスト教福音派の方々にとって、サノスの思想はある意味納得できるものであると思います。最後には神が天国に行く人を選ぶ。その裏付けは信仰だったりするのですが、我々は選ばれるという前提で集団を形成してる人達は排外主義にも繋がります。だからこそ、神にも似た力を発揮するサノスが単純な悪として描かれてない本作がアメリカで、映画史上に残る大ヒットを記録していることは大変興味深いですし、ファンタジーであるこの世界も彼らにとっては自分たちの日常と密接につながっているのだろうと感じます。その意味でも『アベンジャーズ4』でどうまとめるのか? 楽しみです。

 本作はラストがああいった形になり、物語の結末は『アベンジャーズ4』に完全に委ねられた形となりました。物語を引っ張るだけ引っ張って、1番大事なところは次へという形は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』と似ているとも言えます。どうか『最後のジェダイ』のようにならないことを祈るばかりですが……。

■DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup
77年フランス、パリ生まれ。ロンドン育ち東大中退。Black Swan代表。マイカデリックでの活動を経て、日本のインディーズHIPHOP LABELブームの先駆けとなるDa.Me.Recordsを設立。自身の作品をはじめメテオ、KEN THE390,COMA-CHI,環ROY,TARO SOULなどの若き才能を輩出。ラッパーとしてだけでなく、HIPHOP MCとして多方面で活躍。DMCJAPAN,BAZOOKA!!!高校生RAP選手権、SUMMERBOMBなどのBIGEVENTに携わる。豊富なHIPHOP知識を元に監修したシンコー・ミュージックのHIPHOPDISCガイドはシリーズ中ベストの売り上げを記録している。
2009年クラブでMC中に脳梗塞で倒れるも奇跡の復活を遂げる。その際、合併症で左目を失明(一時期は右目も失明、のちに手術で回復)し、新たに眼帯の死に損ないMCとしての新しいキャラを手中にする。2014年から漢 a.k.a. GAMI率いる鎖GROUPに所属。レーベル運営、KING OF KINGSプロデュースを手掛ける。ヴォーカル、ドラム、ベースのバンド、THE BASSONSで新しいFUNK ROCKを提示し注目を集めている。

■公開情報
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』
全国公開中
監督:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ロバート・ダウニーJr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ドン・チードル、トム・ホランド、チャドウィック・ボーズマン、クリス・プラット
原題:Avengers: Infinity War/全米公開:4月27日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2018MARVEL
公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-iw/home.html

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