異形の者たちの愛の物語『シェイプ・オブ・ウォーター』は、戦い続ける人々の心に染み入る

今祥枝の『シェイプ・オブ・ウォーター』評

 このように深読みができるキャラクター描写、ドラマの多くは言葉に頼らず、映像で語られる点に、デル・トロの監督としての手腕が冴え渡る。とりわけ、水の中で二人が抱き合ってたゆたう、あまりにもロマンティックで美しいシーンには、思わず熱いものがこみ上げてきて胸がいっぱいになる。プールやお風呂でもいい、水の中に頭を沈めた時の、あの独特の静寂を思い出してみて欲しい。世の中のすべての喧騒から切り離されて、ありのままの自分を見てくれる相手と二人きり。そこにあるのはアレクサンドル・デスプラの旋律と水の音だけ。これぞ映画、これぞデル・トロの映像マジック。どこかサイレント映画を思わせる本作の”静けさ”は、SNSや何やかんやと雑音で覆われている今の時代に、とても貴重で贅沢な時間でもあるだろう。

 愛の物語がシンプルだからこそ際立つ、計算され尽くした色や全編を彩る音楽の使い方、こだわりの”彼”=クリーチャーの造形、そしてクラシック映画を多用したデル・トロのあふれんばかりの映画愛。もちろん、キャストのいぶし銀の名演は言わずもがな。どれをとっても、ひとつひとつの要素が、実に語りがいのある豊かな作品だ。ラブストーリー、ダークファンタジー、スリラーの要素がミックスした誰もが楽しめる娯楽作。それでいて、友情や連帯、他者への共感や思いやり、そして自然への畏敬の念と未知のものに対するリスペクトといった、この混迷の時代に必要なものを押し付けがましくなく、わかりやすい形でまっすぐに伝えている。この点に最大のデル・トロらしさがあり、トランプの時代とワインスタインに端を発するセクハラ・パワハラ騒動などに心を痛め、疲弊し、それでも闘いを続ける人々、とりわけハリウッドの関係者の心に染み入るものがあるのだと思う。

■今祥枝
映画・海外ドラマライター。「女性自身」「BAILA」「日経エンタテインメント!」「シネマトゥデイ」など雑誌・ウェブで連載。ほかプレス作成、劇場用プログラムなどに寄稿。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。Twitter

■公開情報
『シェイプ・オブ・ウォーター』
3月1日(木)より全国ロードショー
監督・脚本・製作・原案:ギレルモ・デル・トロ
出演: サリー・ホーキンス、オクタヴィア・スペンサー、、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス
配給:20世紀フォックス映画
(c)2017 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

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