目撃せよ、中国アニメ復活の瞬間! 『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の高揚

洗練を極めた「上海アニメーション」

 もともと、アジアで最初の長編アニメーション映画を作ったのは中国だ。その題材になったのは、やはり『西遊記』である。日本軍に上海(シャンハイ)が占領されていた時代、多くの映画会社が制作の中止を余儀なくされるなか、中国アニメーションの第一人者である、双子の万(ウォン)兄弟を中心に、ディズニーのアニメ作品と勝負できるものを作ろうと、力を合わせ取り組んだのが、名作として知られる『西遊記 鉄扇公主の巻』(1941)だった。

 「上海アニメーション」とも呼ばれる「上海美術映画製作所」の作品は、60年代に洗練の極みに達する。『牧笛』(1963)のような、中国の水墨画をそのままアニメーションにするという離れ業を成し遂げ、技術的にも芸術的にも、世界のトップで勝負できる圧倒的な作品を作り上げることになる。

 娯楽面では『大暴れ孫悟空』上巻(1961)、下巻(1964)が人気を博した。主人公・孫悟空の、顔が白く塗られた突飛なキャラクター・デザイン、そして優美かつ豪快な動きは、京劇のそれを思い起こさせる。このように「上海アニメーション」は、ディズニーの影響から脱却し、中国の歴史的な文化を活かした、東洋的な美学があふれる傑作を作るまでに至ったのである。この洗練されたデザインの孫悟空は、「サントリー烏龍茶」のCMにも起用されたことがあるので、記憶に残ってる人も多いはずだ。

 しかし1966年から1976年までの文化大革命の影響下の中国では、アニメーションは思想的に「反革命的」なものだとされたことで、世界的な存在へと登りつめたアニメ文化は衰退の一途を辿ることになる。その後、『ナーザの大暴れ』(1979)や『西遊記 孫悟空対白骨婦人』(1985)のような素晴らしい作品もあったものの、中国のアニメーションは、日本の後塵を拝するようになる。革命の爪痕による文化の断絶というのは、これほどまでに深刻だったのだ。

目撃せよ、中国アニメ復活の瞬間

 『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』が、センス、技術ともに洗練の極みにあった、黄金期の上海アニメーションの高みに、まだまだ追いついてないというのは確かである。だがその状況は、まさに天界から下界に落とされて、長年の間、岩の中に閉じ込められたことで、かつての力をうまく取り戻せないでいる孫悟空の姿そのものではないか。

 中国アニメが世界に打って出るのだとすれば、その狼煙(のろし)は、やはり『西遊記』でなくてはならなかった。ストーリーを大きく変更してまで本作が表現するのは、その“復活”という一点である。象徴的な存在である孫悟空の境遇に寄り添い、その輝かしさを取り戻すまでを描くことで、本作は、かつて世界の頂点へと登りつめようとしていた中国アニメーションが虐げられた歴史を背負う作品になった。

 その苦難の歴史が土台にあることで、本作の「孫悟空復活」は、表面的なストーリーを超えたところで感動を与えるものになっているのだ。そして、そこで3DCGという新しい表現が駆使されることによって、中国のアニメーションがふたたび世界のトップを目指す可能性を得たことを宣言するのである。

 世界の潮流、そして中国アニメーションの今後の躍進によって、日本のアニメーション制作もまた、技術面でも業界のシステムにおいても、様々な部分で変革を余儀なくされるように思われる。歴史を継承することは重要だが、時代に対応するために、古いものを壊していくことも必要なはずだ。本作の孫悟空のように、本来の力を発揮するためには、自分自身が常に変わり続けていかなければならないのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』
新宿ピカデリーほかにて公開中
監督:田暁鵬(ティエン・シャオポン)
日本語吹替制作監修:宮崎吾朗
提供:アクセスブライト、VAP
配給:HIGH BROW CINEMA
(c)2015 October Animation Studio,HG Entertainment
公式サイト:saiyuki-movie.jp

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