『HiGH&LOW THE MOVIE 3』評論家座談会【後編】 「映画界におけるブランドになった」

成馬「オタク界隈の評論と同じやり方で語ることもできる」

成馬:こうして振り返ってみると、やっぱり『HiGH&LOW』って不思議なコンテンツでしたよね。僕の感覚でいうと、『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』といったオタク向けのSFロボットアニメが果たしていた役割を、今はなぜか『HiGH&LOW』が担っているという感じなんですよ。多数のキャラクターが出てきて、虚構の世界を作っていくコンテンツ。最近のアニメや漫画では、そういう作品が減っていて、むしろ漫画家の実体験を書いたものとか、現実の地続きにあるような物語が主流になっていて、虚構の世界をじっくりと作りこんだものがなかなか出にくくなってくるんだけれど、『HiGH&LOW』は最後まで大風呂敷を広げてくれた。だから、かつてオタク界隈で行われていた評論と同じやり方で語ることもできるし、主題も引き継いでいる。『エヴァンゲリオン』を語っていた時の言語で語れてしまうんです。その強度がすごい。

西森:普通、作品の向こう側に本人がいるものって、ちょっと語りにくいんですよね。もしかしたら本人が目にするかもって思うと、ファンとして怖気付いてしまうというか。だからこそ、言葉の壁があって、海外との比較論になるK-POPは語りやすかったわけで。でも、『HiGH&LOW』ではファンたちはもちろん、俳優陣も自分たちで想像していろんな部分を補完していて、それがインタビューとかでどんどん判明していく。オタクって公式の展開は大事にしつつ、そこに想像を加えていきたいのかなと思うんですけれど、『HiGH&LOW』は役者陣も率先して想像の材料を与えてくれるし、しかも公式が許容してくれるわけですから、こんなにオタクに親切なコンテンツはそうそうないですよね。LDHは公式で、アーティストの画像をファンがどこまでどう使用していいかのラインを発表していて、本当に革新的だと思いました。逆に、公式があれもこれもやっちゃダメって言っているとこちらに感じさせてしまう作品は、ファンの熱が下がっているのを感じます。『シン・ゴジラ』にせよ、『君の名は。』にせよ、語れる自由がある作品が、今は求められているのかもしれません。

加藤:僕にとっては、とにかく感謝しかないコンテンツでした。良くも悪くも先が読めないコンテンツで、なおかつこちらの想像を越えてくる瞬間が必ずあったんですよね。僕が育った90年代はすでに日本のアクション映画は下火で、テレビでも時代劇などは減っていて、作り込んだ世界観の作品を目にする機会もあまりありませんでした。だから、なんとなく日本ではそういうコンテンツを作ることはできないんだと、半ば諦めていたんです。でも、『HiGH&LOW』は、日本でもそういうコンテンツが作れるってことを証明してくれました。しかも、物語としては決してバランスの良い作品ではなかったかもしれないけれど、作り手側に伝えたいメッセージがちゃんとあって、それを最初から最後まで貫徹してくれたところにも感銘を受けました。これから先、『HiGH&LOW』がどこまで続くのかはわからないけれど、少なくとも僕は今後、LDHがなにかを仕掛けるとなれば注目します。世の中にまだこんなに楽しいことがあるのだと教えてくれたという意味でも、本当に感謝していますね。

加藤「EXILEは『HiGH&LOW』ファンにとってドリームチーム」

加藤:ところで来年はいよいよ、EXILE本体が再始動しますね。どんな打ち出し方をするのかはまったく想像できませんが、『HiGH&LOW』で培った様々なノウハウが活かされて、これまでにないエンタテインメント集団に進化しているのは間違いないでしょうね。実際、EXILE THE SECONDのMVや三代目J Soul BrotersのMVでは、『HiGH&LOW』でお約束の“ボンネット乗り”が披露されているんですよ。岩ちゃんさんが車のボンネットに乗って、渋谷の街を走り周っていて。きっとEXILE再始動は、『HiGH&LOW』みたいに音楽だけではない、総合エンタテインメントの様相を示すのではないかと。

西森:来年の計画ってもう仕込んでないといけないから、それはもう様々なプロジェクトがスタートしているはずですよね。

加藤:『HiGH&LOW』シリーズが本当に面白かったから、僕はLDH picturesのレーベル・HIGH BROW CINEMAが配給を手がける『Mr.Long/ミスター・ロン』も観に行こうと思っています。僕らのようなアクション映画ファンに「LDHの映画だから観に行こう」と思わせるようになったという意味では、『HiGH&LOW』は確実に成功を収めたと言えるでしょう。興行収入や評価の面でどれくらいの成功を収めたのか、正確なところはわからないけれど、少なくとも日本の映画界における一定のブランドにはなったと思います。

西森:『Mr.Long/ミスター・ロン』、試写行った人の評判いいですしね。アジア映画の中でずっと活躍してきたチャン・チェンがLDHの映画にって思うと感慨深いです……。

加藤:おそらく、LDHが発信するエンタテインメントがこんな風に分析されることは、これまでになかったことですよね。

西森:徹底的に掘り下げられましたね(笑)。今回も、チャン・チェンとSABU監督ってところで、やっぱり発表があったときから、何か語りたくなるものがありますし。

成馬:『HiGH&LOW』によって、一気にEXILE TRIBEに対する理解が深まりました。

加藤:こんなに面白いものが僕たちの近くに存在していたなんて、本当に驚きました。来年のEXILEは、『HiGH&LOW』ファンにとってはまさにドリームチームなので、今から楽しみです。

(取材・構成=松田広宣)

■公開情報
『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』
全国公開中
キャスト:
【ムゲン】AKIRA・青柳翔/井浦新
【雨宮兄弟】TAKAHIRO・登坂広臣/斎藤工
【山王連合会】岩田剛典・鈴木伸之・町田啓太・山下健二郎・佐藤寛太・佐藤大樹・八木将康・天野浩成・岩谷翔吾・山本彰吾
【White Rascals】黒木啓司・ 遠藤雄弥・稲葉友・栁俊太郎・廣瀬智紀・松田凌・西川俊介・西村一輝
【鬼邪高校】山田裕貴・鈴木貴之・一ノ瀬ワタル・青木健・清原翔・陳内将
【RUDE BOYS】窪田正孝・佐野玲於・ZEN・佐野岳/藤井夏恋・鈴木梨央
【達磨一家】林遣都・阿部亮平・小澤雄太・水野勝・田中俊介・守屋光治・井澤勇貴
【苺美瑠狂】楓・佐藤晴美・山口乃々華・城戸愛莉
【MIGHTY WARRIORS】ELLY・大屋夏南・野替愁平・白濱亜嵐・ANARCHY・LIKIYA・祐真キキ/NAOTO・関口メンディー
【九龍グループ・会長】津川雅彦・岩城滉一・岸谷五朗・加藤雅也・笹野高史・髙嶋政宏・木下ほうか・中村達也・早乙女太一
【九龍グループ・幹部】橘ケンチ・小林 直己・尚玄・小野塚勇人・渡邉紘平・武田幸三・夕輝壽太・白石朋也・荒木秀行・黒石高大
藤井萩花・坂東希・中井ノエミ・葉加瀬マイ
長谷川初範・堀部圭亮・矢島健一・斎藤洋介・渡辺裕之・池上幸平/豊原功補/YOU/小泉今日子/飯島直子
企画プロデュース:EXILE HIRO
脚本:平沼紀久、渡辺啓、上條大輔、Team HI-AX
監督:久保茂昭、中茎強
アクション監督:大内貴仁
企画制作:HI-AX
製作著作:「HiGH&LOW」製作委員会
配給:松竹
(c)2017「HiGH&LOW」製作委員会
公式サイト:http://high-low.jp/

関連記事