“差別”というシリアスな題材をポップに表現ーー『ゲット・アウト』が描く普遍的な恐怖

小野寺系の『ゲット・アウト』評

 本作が話題を集めたのは、このような「差別」というシリアスな題材を、きわめてポップに表現したという点においてであろう。「相手は自分のことを本当はどう思っているのか…?」それは黒人だけでなく、誰にでもある普遍的な恐怖である。その根源的な感覚に触れているというのも、本作がヒットした理由だと考えられる。

 この種の作品が難しいのは、描き方を間違えれば、逆に批判の対象として袋叩きにされかねないという部分である。タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』も、差別への抵抗を描いてきた映画監督スパイク・リーによって、SNSで批判されている。「アメリカの奴隷がされたことは、(タランティーノが描いたような)セルジオ・レオーネ風のスパゲティ・ウェスタン(マカロニ・ウェスタン)なんかじゃない。自分の先祖はアフリカから誘拐され虐殺されたんだ」というように。

 だが本作は、あくまでもスリラー映画として、シリアスになる手前で踏みとどまっているように思える。そういうバランスになっているのは、本作の監督ジョーダン・ピールが、コメディー番組『マッド TV!』や『キー&ピール』などで活躍した現役のコメディアンであることが大きいように思える。彼のネタのなかには、もちろん人種差別をベースにしたものがある。ピールの芸のなかでは、「酔っぱらったジェームス・ブラウン」というネタが個人的にお気に入りで笑い転げてしまった。これはジェームス・ブラウンがプライベートで事件を起こして保釈された後の、実際のインタビューを基にしているので、考えようによっては不謹慎きわまりないが、そこをポップな表現に昇華できてしまうセンスというのが、TV番組で鍛えられたピールの持ち味であるだろう。

 とはいえ本作は結果的に、痛烈な社会風刺映画になってしまった。それは、人種差別的な言動が絶えないドナルド・トランプという人物が、本作の製作中に大統領になってしまったという事実である。「人種差別は悪いことだ」…アメリカの大部分の国民はそう言うはずだ。しかし、少なくとも半数近くのアメリカ国民が、現実にそんなトランプ氏に票を投じて支持しているのである。アメリカの黒人にとって、そしてアメリカに住む、アジア系を含む有色人種や、多数派でない宗教、文化、趣向を持っている者は、多数派の人々から、いつ「ゲット・アウト(出ていけ)!」と言われるか分からないのだ。その事実は、やはり「恐怖」として映るだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ゲット・アウト』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
製作:ジェイソン・ブラム
監督・脚本:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、キャサリン・キーナー
ユニバーサル映画
配給:東宝東和
(c)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved
公式サイト:http://getout.jp

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