『怪盗グルーのミニオン大脱走』から探る、イルミネーション大躍進の理由

 女性の社会的地位、人種間の緊張、移民問題、オバマ政権からトランプ政権へ。もちろん、現在のアメリカが抱えているそれぞれのイシューは、日本も含む世界中に大きな影響を及ぼす重要なものだ。しかし、現在のアメリカ映画は実写作品のみならず、アニメーション作品においても、あまりにも社会的に「意識の高い」作品に偏重しすぎているという見方もできるだろう。特に各映画賞の賞レースなどに関わってくる作品になると、ほとんどがそういう作品に埋め尽くされることになる。しかし、そうした風潮にあって、この『怪盗グルー』シリーズは驚くほど自由気ままである。

 『怪盗グルーのミニオン大脱走』はオープニング・タイトルにおけるミニオンたちの「オナラ」ネタに始まり、最終的に敵との勝敗を決めるのも80年代ポップスにのった謎のダンス対決。途中、ミニオンたちは異国の刑務所に収監されるのだが、そこで彼らは思い思いのギャング風のタトゥーをあの黄色い身体(顔でもあるが……)に入れてみせる。ちなみに、海外での宣伝のビジュアル展開ではストーリーの本筋とはまったく関係のないそのタトゥーが大フィーチャーされていて、先日訪れたロサンゼルスの街角では、いたるところに自身のタトゥーを見せつけてこちらを睨んで凄みをきかるミニオンたち(ただカワイイだけなんだけど)のポスターが連続して貼られていた。

 現在のアメリカ社会においては「意識低い系」ともとられかねない、そんな『怪盗グルー』シリーズではあるが、実はそういう政治や社会や日常生活のことを映画館にいる時間だけはすべて忘れさせてくれるバカバカしさこそが、多くの人(子供も大人も)がアニメーション作品に一番求めているものなのではないだろうか? 「ストーリーよりもキャラクター」。現在のイルミネーション作品の世界的躍進の大きな理由の一つは、無国籍的作品ならではの「社会に対して無頓着であること」への強い意思があるように思うのだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『怪盗グルーのミニオン大脱走』
7月21日(金)全国公開
プロデューサー:クリス・メレダンドリ
監督:ピエール・コフィン、カイル・バルダ
声の出演(字幕版):スティーヴ・カレル、クリステン・ウィグ、トレイ・パーカー
声の出演(吹替版):笑福亭鶴瓶、松山ケンイチ、中島美嘉、芦田愛菜、須藤祐実、矢島晶子、いとうあさこ、山寺宏一、宮野真守、福山潤、LiSA、生瀬勝久
原題:「Despicable me 3」
配給:東宝東和
(c)UNIVERSAL STUDIOS
公式サイト:minions.jp
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公式Twitter:https://twitter.com/minion_fanclub

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