『キス我慢』『酒場放浪記』……TVバラエティはなぜ映画を目指す?
今や日本映画のほとんどを占める原作もの。コミックや小説などの書籍はもちろんのこと、アニメの実写化、海外作品を日本版にリブートなど、あの手この手で繰り出される原作もの映画のタイトル数は、年々増えていっているようにも感じられる。ある程度名前が知られている作品の映画化は、成績が見込みやすいという製作側の利点がある反面、オリジナル作品の企画が通りにくい現状もまた事実。しかし中には、いわゆる原作ものの範疇でありながら、全く違うアプローチで映画化にこぎつける作品もある。それがバラエティ番組だ。コミックや小説のようにストーリーがあるわけでもなく、ましてや出演者もほとんどがタレント。それでもなぜ映画という形態を選ぶのか。その狙いとは一体何なのか。
これまでの事例をいくつか見てみよう。
2013年に公開された『ゴッドタン キス我慢選手権THE MOVIE』は、テレビ東京で土曜深夜に放送中のバラエティ番組『ゴッドタン』の映画化作品。キスを迫ってくる美女の誘惑をどこまで我慢できるかという番組の人気企画をフィーチャーして制作された。映画といえど、ほぼ全編劇団ひとりのアドリブ芝居。翌年には続編も作られ、バラエティ映画の草分け的存在となった。
インターネットやTOKYO MXで放映中の番組を映画化した『内村さまぁ~ず THE MOVIE エンジェル』(2015)は、番組の出演者はそのままにドラマに仕立てた。探偵事務所兼劇団の「エンジェル社」に所属する内村やさまぁ~ずのふたりが時折ゆるいボケをかましながら物語は進行する。番組の世界観を踏襲しながら、新たな可能性に挑戦した意欲作だ。
そして昨年はテレビ東京の人気番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』が映画化。レギュラー出演者である太川陽介と蛭子能収のコンビが台湾へと飛び出し、ゲストの三船美佳と路線バスを乗り継ぎゴールを目指す。TV番組の体裁をそのままスクリーンに持ち込むという、てらいのない発想は逆に新鮮。一方、特番で良かったのでは?という厳しい意見があったのも否めない。
海外に目を向ければアメリカのお下劣いたずら番組『ジャッカス』シリーズが思い浮かぶ。映画版はなんと3作(うち1作は3D!)も制作された。R-18指定の過激な下ネタが話題となり、本国のみならず日本でもブームに。最初の映画化が2002年だと考えると、日本でこれほどバラエティ映画が流行した背景には少なからず本作の影響もあるのではないだろうか。
こうしてみると、一口にバラエティ番組発の映画といえど手法はさまざま。TV版とは違った展開を見せる作品もあれば、TV版の純度をより高めようと映画を選んだ作品も。しかしひとつ言えるのは、どの作品にも製作側そして出演者、ファンの愛情によって成り立っている点。その証拠に、映画化されたタイトルはローカルやCS放送の作品が多く、ずば抜けた視聴率の高さがあるわけではない。その分、ファンに愛され、製作側も思い入れを持っているから長く続いている番組ばかりだ。ある種文化祭的な盛り上がりが漂っているのも頷ける。