『昼顔』『オカムス』『緊急取調室』……脚本家・井上由美子が描き続ける女の情念 

 主人公とは対極の、物語の「闇」の部分を担う井上由美子作品の影のヒロインたちの目は、いつも笑っていない。特に『昼顔』と『営業部長 吉良奈津子』の両方でその立場を担った伊藤歩、『お母さん、娘をやめていいですか?』での毒母が話題を呼んだ斉藤由貴のふたりの目の演技が醸し出す怖さは、物語よりも強い印象を残すほどだ。一見優しそうで、料理が得意で家庭的な、完璧に見える彼女たちは、自分にないものを持つヒロインたちが無意識に彼女の幸せを奪おうとすることが許せない。『営業部長 吉良奈津子』におけるベビーシッターの深雪は、自分が失ってしまった幸せな家庭に加えキャリアも手に入れた主人公が許せなかった。『お母さん、娘をやめていいですか?』の母親・顕子は、心血を注いで溺愛してきた娘が自分のできなかったことを次々と成し遂げ、自分の元から去ろうとすることが許せなかった。そして、『昼顔』の乃里子は、平凡な家庭を築いていただけなのに自分ではない女性を愛する夫と、彼女から夫を奪った女性をどうやっても許せない。彼女の場合は、「結局私が悪者になってる……何も悪いことしてないのに……」という台詞にあるように、本当に何もおかしなことは言っていない。

 本能的に求め合うホタルのように、求め合わずにはいられなかった紗和と北野の燃え上がる恋の炎の反対で、静かに燃える乃里子の悲しみの炎は、確かに映像に焼きついている。彼女の存在がなかったら、この物語はただの夢物語でしかなかっただろう。井上由美子が描く女たちの愛への固執と情念、その美しさを、ぜひ劇場で堪能していただきたい。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『昼顔』
全国東宝系にて公開中
監督:西谷弘
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
出演:上戸彩、斎藤工、伊藤歩、平山浩行
企画・製作:フジテレビ
配給:東宝
制作プロダクション:角川大映スタジオ
(c)2017 フジテレビジョン 東宝 FNS27社
公式サイト:hirugao.jp

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