映画・ドラマはなぜ出演者の不祥事で“上映中止”になるのか? 弁護士に見解を聞く
出演者の不祥事が発覚し、ドラマや映画が公開中止や再編集を余儀なくされるケースが目立っている。未成年との飲酒及び不適切な関係を認めた俳優・小出恵介が出演している公開中だった映画『愚行録』などの上映が中止になっているほか、昨年8月には強姦致傷容疑で逮捕(後に不起訴処分)された高畑裕太の出演ドラマ『侠飯〜おとこめし〜』が、一部撮り直しのうえ、高畑の出演シーンをカットして放映されている。
多くの資金と人材を集めて製作された作品が、ひとりの出演者の不祥事で台無しになってしまうことについて、ネット上では様々な意見が飛び交う。タレントのフィフィは「不祥事を起こしたらボカシ入れたり、放送や上映を中止する必要があるのかいつも考えてしまいます。作品には罪がないのに」との見解を述べている。
製作サイドにとってはもちろん、作品を楽しみにしていたファンにとっても大きな損失になるにも関わらず、こうした事例が目立っているのはなぜなのか。エンターテイメント業界に詳しい弁護士の小杉俊介氏にポイントを聞いた。
「映画やドラマは著作権法上「映画の著作物」に該当します。映画の著作物の製作には多数の関係者が関わることや、経済的リスクが伴うことから、著作権法では映画の著作物について映画製作者が著作権者になると定められています。映画製作者はその映画やドラマについての財産的権利を持つことになり、放送や上映を中止するかどうかを決定する権限も持つことになります。たとえば映画の製作委員会などです。そして、映画やドラマに出資している企業は、昨今のコンプライアンス意識の高まりを受けて、レピュテーションリスク(企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度)に敏感になっています。そのため、不祥事や事件を起こした人物との関わりを非常に嫌うのです。この背景には、インターネットが普及し、多くの人々が自由に発言できるようになったことの影響が少なからずあるでしょう。企業が不祥事との関わりを顧客から指摘されて大きな話題となれば、結果的に大きな損害となる可能性がありますから」
一方で、作品の作者である著作者(監督など)には何の権利も残らないのかと言えばそうではなく、著作者として著作者人格権が認められている。著作者人格権の1つとして「公表権」があり、「自己の未公表の著作物を公表するか否か、どのような形・時期で公表するか」を著作者が決定する権利のことをいう。したがって、たとえば映画が公開されないまま不祥事によってお蔵入りするような場合は、監督などの公表権を侵害している可能性がある。しかし、一般的には著作権が関わる契約では「著作者人格権不行使条項」、つまり著作者人格権を行使しません、という条項が入っている場合がほとんどなので、公表権を行使するといった事態はまず考えられない。