シネコンは“アートスペース”にもなれる? 立川シネマシティ『映画 聲の形 inner silence』の挑戦

『映画 聲の形 inner silence』の先鋭性

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第17回は“シネコンはアートスペースにもなれるか”というテーマで。

 今回取り上げるものはこの連載のこれまでのものとかなり異なります。映画館の仕事についてのあれこれでもなく、僕自身の企画でもありません。

 これまでに行ってきた様々なシネマシティの実験的な試みの中でも、群を抜いて前衛的な上映イベントである6月24日(土)開催の『映画 聲の形 inner silence』【極上音響上映】について書かせてもらいます。

 『映画 聲の形』は2016年の9月に公開されたアニメーションです。大きくヒットし、ロングラン上映となりましたので、ご存じの方も多いでしょう。最近ソフトもリリースされました。同名のマンガを原作とした、山田尚子監督、京都アニメーションの作品です。聴覚に障がいを持つ女の子と、小学生の時に彼女をいじめていたものの、あるきっかけでクラスの空気が反転して彼自身がいじめの対象となってしまった少年が、高校生になって再会するのを描いた作品です。

 シネマシティではファーストランでは上映できなかったのですが、お客様からのたくさんのリクエストをいただき、3ヶ月遅れでなんとか上映させてもらえました。

 大変お待たせしたということもあり、「音響のシネマシティ」ということもあり、考え得る最高のサウンドクオリティで上映したいと配給会社様にお願いし、鶴岡音響監督、山田尚子監督、そして音楽の牛尾憲輔さんにご来場いただき、音響調整の監修をしていただきました。この上映はありがたいことに大変な評判となり、遅れての上映とは思えないほど盛況になりました。

当時の上映を告知するニュースページ
https://ccnews.cinemacity.co.jp/shape_of_voice_goku-on2/

 この時の「劇場に合わせて音を調整して磨き上げる」、というスタイルを牛尾さんが大変面白がってくださり、この「inner silence」版の上映のオファーをいただきました。

 「inner silence」版とはどういうものか。それはソフトの特典として収録された、音楽制作のコンセプトデモとして作られた曲を本編に合わせて本制作した音楽のみの音声版です。そこにはセリフも効果音すらも入っていません。字幕もつきません。現在サイレント映画のソフトには大抵音楽が入っていますが、あの感じです。

 先日牛尾さんにシネマシティにお越しいただき、音響家の増旭さんにお願いして音響調整を行ったのですが、その“体験”があまりにも鮮烈で、一足飛びに映画館の未来を垣間見てしまったような衝撃を受けました。正直、数万字を費やしても、この上映の体験レポートと、内蔵する意味、おそらくは牛尾さんの意図をも超えて“表現されてしまったもの”について語りたいのですが、このコラムという場では許されるはずもなく、ハイライトで紹介させていただきます。

 あらかじめ謝罪しておきますが、この1回限りの上映のチケットはすでに完売しております。ただし、評判の大きさ、リクエストの多さが伝われば、再上映の可能性がないわけではないはずです、たぶん。

 シネマシティだけで決められることではないのでなんとも言えませんが、興味を持たれた方は、ぜひ聲をあげてみてください。この上映があまり例をみない“体験”であることは間違いありません。

 さて、この実験的な上映のポイントになる部分を、きちっと文章にすると長くなるので箇条書きで挙げていきます。「聲の形」の内容ネタバレはありませんが、この上映に参加される方で先入観なくまっさらな気持ちで臨みたい方は、終映後にお読みください。

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