「この国の、未来のために」小栗旬ら特捜班が進む道とは? 『CRISIS』の意味から紐解く

『CRISIS』小栗旬ら特捜班が進む道

 「この国の、未来のために」。6月13日の放送で、ついに最終回(第10話)を迎えた『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)。なんとも衝撃的なラストに、続編を期待する視聴者の声が目立つ。“善も悪も、同じことを言う「この国の、未来のために」”と言うのが同ドラマのキャッチコピー。最終回では、そんな“この国の、未来”とは、誰のためのどんな未来を指しているのかが問われていたように思う。

 第10話は、テロを企てていることが判明した、稲見(小栗旬)の自衛隊時代の同期かつ元特殊部隊員の結城(金子ノブアキ)が、特捜班のオフィスに侵入し、黒色火薬を使用したパイプ爆弾を使って宣戦布告するシーンから始まる。怒りに震える稲見は、結城と戦うことをついに決意するのだった。

 これまでの放送を観てきて、第9話で結城が登場した瞬間に、“結城は消される”と思った視聴者は少なくないはずだ。そして、『CRISIS』というドラマはやはりどこまでも残酷である。その“死”の予感を裏切ず、切なすぎる結末へと導く。加えて、特捜班のメンバーたち各々に“CRISIS”な未来を予感させる、なんともモヤっとしたエンディングを用意していた。

 結城にとって“初めての愛だった”婚約者の死は、“国家にとって不都合な出来事”だった。なぜなら、岸部正臣首相(竜雷太)の息子・大介(長田成哉)が起こした(隠蔽された)事件による被害者だったからだ。その事件は1年前に東京駅セントラルホテル内のカフェで起き、表向きではずさんなホテル建設のせいで起こった“ガス爆発事故”となっている。愛する人を失った結城は「俺はまるで、生きる屍だった」と振り返り、「俺に残されたものは復讐だけだった。真相を突き止めて、俺の愛する人の敵を討つことだけだった」と涙ながらに訴えた。

 そんな結城を目の当たりにし、「俺も同じだ」と口にした稲見は、「俺が……、お前を解放してやる」と言いながら壁に拳銃を向け発砲。そして、結城に「今、お前は死んだ。でも、生き返れ。俺が羨むぐらい、生きることを楽しめ」と伝えるのだった。その直後に稲見の目の前で射殺される結城。田丸(西島秀俊)が稲見に言っていた「お前の気持ちはよくわかる。俺もお前と同じ種類の闇を見てきた。お前は俺だ。だから、俺の前でお前を死なせるようなまねはさせない」という言葉が頭をよぎる。きっと、稲見は結城に対して同じ感情を抱いていた。そんな結城が、目の前で射殺されるという最期は、あまりに酷い。

 突然の出来事に、結城の遺体を横目にただ呆然と立ち尽くす稲見たち特捜班。大介を誘き寄せるために、岸部首相が結城におとりにされたのではなく、結城を抹消するために、特捜班と大介が岸部首相におとりにされていたのだった。不祥事を起こし、足枷でしかない息子の大介もまた一緒に消えてくれることを、岸部首相は願っていたように思う。鍛治はこうなることがわかっていた。だから、稲見に何度も「結城が現れたら、ためらうことなく銃を向けて引き金を引け」と言っていたのだ。第5話で鍛治は、「善も悪も全て取り込んで蓄えた力で、いつか本物の悪を叩く」と覚悟を示していた。そのためには特捜班が必要であり、今彼らが職務を離れてしまっては計画が台無しになってしまう。だからこそ、今回の結末を恐れ、稲見に引き金を引かせたかったのではないだろうか。

 稲見は結城を追うにあたり、自身の過去についてポツリポツリと特捜班のメンバーに話していた。自衛隊時代、「この国と国民のために命を懸けて闘ってきたつもり」だった稲見だが、任務をこなしていくうちに「俺が闘ってるのは、この国や国民のためじゃなくて、国家のためなんじゃないかと」疑問が芽生えたという。特捜班としての活動もまた、稲見の“国家に対する疑念”を膨らませ続け、“破裂寸前”になっていたのだろう。そして今回の結城の事件の結末を目の当たりにし、その疑念を抑えつけられないほどになってしまった。「兵士が迷いを持って任務をこなすようになったら、もうダメです」という稲見の言葉が浮かぶ。稲見たち特捜班もまた、ダメになってしまうのだろうか。

 第10話エンデイングでの稲見の姿は、第6話エンデイングを彷彿とさせた。だが、第6話では稲見の携帯に芳(天使/野崎萌香)ちゃんからの着信があり、落ち込んでいた稲見が「でも、もう大丈夫。今、光が見えたから」と口にする。一方の第10話では、芳(天使)ちゃんに電話しようとするが、手を止めて携帯の明かりを消す稲見。まるで、“光”が閉ざされてしまったかのようだ。暗闇の中で何かを睨みつける稲見だが、“本物の人生”を見失わないで欲しいと願うばかりだ。

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