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門間雄介の「日本映画を更新する人たち」第10回

『夜空はいつでも最高密度の青色だ』映画化はなぜ成功したか? 石井裕也監督と孫家邦Pのつながり

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 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』も、ところどころに映る普請中の東京の風景から、これが2020年夏季オリンピックへと向かう東京のドキュメントだということがわかる。急ピッチで商業施設の建設が進められる渋谷の様子、震災後に陳腐化してしまった「がんばれ」のフレーズを路上で弾き語る女、病院や水商売、建設などの現場でギリギリに生きる人々。そんな東京のいまを、いまという時代を、石井は夜空から俯瞰するようにして見つめている。

 でもそこからぐっと焦点を絞り、主人公である美香と慎二のふたりに視線を向けていくと、この作品はこれ以上ないくらいロマンティックな恋愛映画の様相を呈しはじめる。ふたりの恋が情熱的なのは、恋愛が決してたやすくない時代の価値観が、前提として十分に描きこまれているからだ。だからこそ、その障壁を乗りこえて距離を縮めていくふたりの関係が、ここではひときわ鮮やかなものに見える。もちろんこのロマンティックさも、例えば『あぜ道のダンディ』(10)や『ぼくたちの家族』(13)で人はどう生きるべきかというテーマに接近してきた石井の、一方で現実を直視しながら、他方で理想を追求する本質だ。本来、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は詩を映画化するという変化球的なたくらみだった。でもできあがった作品は、ジャーナリスティックかつロマンティックな、石井裕也の直球ど真ん中だった。

 やはりここで本企画の言い出しっぺである孫家邦について触れないわけにはいかない。阪本順治、豊田利晃、渡辺謙作、大森立嗣、横浜聡子らの監督作に初期から携わり、企画・製作・配給、あるいはそれ以外のかたちでも、日本映画において類まれな人と作品を生み落としてきたプロデューサーのひとりが孫だ。無頼派で知られるプロデューサー荒戸源次郎のもとで80年代半ばから映画に関わるようになり、古くは阪本順治の初監督作『どついたるねん』(89)や鈴木清順『夢二』(91)にその名がクレジットされる彼だが、昨年11月に逝去した荒戸を追悼する朝日新聞の記事(17年1月28日)にこんな逸話が紹介されている。

「出版社リトルモアの孫家邦社長が荒戸源次郎さんの下に身を寄せたきっかけは、飲み会の席で荒戸さん製作の映画を「金返せ」とこき下ろしたことだった」

 無頼派が継承された瞬間だったのかもしれない。彼が手がけた作品はどれも太い縁のようなものでつながっている。例えば、彼が企画した『PORNOSTAR ポルノスター』(98)で監督デビューを果たした豊田利晃の『青い春』(01)。その打ち上げで孫はひとりの少年と出会い、「いつか映画を撮ろう」と約束して、実際に彼が主演する映画を作りあげている。松田翔太主演、大森立嗣監督作『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(09)だ。大森は荒戸プロデュースの『ゲルマニウムの夜』(05)で監督デビューを飾っていたが、その監督第2作を孫が企画したかたちになる。

 石井の『舟を編む』も、もともとは孫が三浦しをん原作、大森監督作『まほろ駅前多田便利軒』(11)の製作に関わり、同じ三浦の原作を映画化しようとしたことに端を発している。このとき、孫が作品を託したのは、豊田監督作や『まほろ駅前多田便利軒』などで顔を合わせてきた松田龍平と、同じ83年生まれの石井だった。脚本の渡辺謙作も、『夢二』で彼が助監督を務め、その初監督作『プープーの物語』(98)を孫が製作していた縁だ。そのようなつながりのなかから映画が生まれ、おそらくまた次の優れた作品へとつながっていく。リトルモアから刊行されている詩集の映画化を石井が担い、それによって本領を発揮するに至ったのは、そう考えると、無茶ぶりなんかではなく孫の術策だったとしか思えない。

■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper’s BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter

■公開情報
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
新宿ピカデリー、ユーロスペースほか全国公開中
監督・脚本:石井裕也
原作:最果タヒ(リトルモア刊『夜空はいつでも最高密度の青色だ』)
出演:石橋静河、池松壮亮、佐藤玲、三浦貴大、ポール・マグサリン、市川実日子、松田龍平、田中哲司
エンディング曲:The Mirraz「NEW WORLD」
製作:テレビ東京、東京テアトル、ポニーキャニオン、朝日新聞社、リトルモア
配給:東京テアトル、リトルモア
(c)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会
公式サイト:http://www.yozora-movie.com/

      

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