作品世界への圧倒的な没入感! 弐瓶勉原作劇場アニメ『BLAME!』が傑作となった理由
映画は、四角いフレームに映されたイメージの連続である。物理的には、縦横ほんの数メートルのサイズのイメージを投射しているに過ぎない。
しかし、その映像の向こう側に広大な世界が広がっている。少なくともそのことを観客に信じ込ませなければならない。数メートル四方のスクリーンに映るイメージで、観客を別の世界に誘うテクニックが映画演出だ。
映画作りにおいては当たり前のことではあるが、言うは易し、である。それができている映画が傑作なのである。映画『BLAME!(ブラム)』はそれが非常に高い完成度でできているのだ。映画を観る観客をスクリーンの世界に吸い込む力がみなぎっている。
本作の原作は、これまで幾度か短編が制作され、本格的な映像化が試みられてきた作品であるが、なかなか実現しなかった。諸処の事情があるだろうが、画面の向こうに原作の緻密で上下左右にどこまでも広がるあの空間を再現することは相当に難易度が高いものだったろうというのは想像がつく。
同じ弐瓶勉原作の『シドニアの騎士』を見事に映像化してみせたポリゴン・ピクチュアズはそれを見事にやってのけた。『シドニアの騎士』も原作ファンを大いに唸らせたが、今作ではCGのキャラ芝居もライティングも音響もさらに磨かれている。
作品世界への圧倒的な没入感
ネット黎明期に発表された本作は、ネットワークやAIなど今では日常で普段よく目にするワードが頻出する。AIなどのテクノロジーの暴走によって人類が危機を迎えるという設定も珍しいものではないが、本作の特異な点は、ネットワークの過剰発展によって建築物が自己増殖するという点にある。
原作者の弐瓶勉氏が漫画家デビュー前に建築関係の仕事に就いていたことも影響しているのだろう。上下縱横に広がる、広大かつ深くて暗い建築の群れの底知れない奥行きが本作の魅力のひとつだ。
この無限とも思える建築物の広がりの説得力を作るために瀬下寛之監督は、絵コンテよりも先にCGモデリングで空間設計を徹底的に行ったそうだ。どこに何があり、人物がどこに配置されるのか、緻密な設計の後からそれをどこから切り取るかという順番で作り上げているとのこと。たしかにどのカットを観ても膨大な情報量の背景に驚かされる。世界の広がりを、画面を通じて体感させるために、実際にその空間を作っているわけだ。