杉咲花、圧倒的な演技力と無垢なビジュアル 『無限の住人』浅野凜役の魅力を読む

 木村拓哉が不死身の侍となり復讐を誓う少女を守る、映画『無限の住人』(三池崇史監督)が4月29日より公開された。個性溢れる刺客たちとの対決や圧巻の300人斬りシーンなど、木村が斬って斬られて斬りまくる、"ぶった斬り”エンタテイメント作品となっている。

 木村は文句のつけようのない格好良さなのだが、映画を魅力的な作品として彩っているのは、杉咲花の存在だと言って間違いないだろう。観客の誰もが惚れてしまうほど杉咲が実に愛おしい。杉咲はヒロインの浅野凜役と、木村演じる主人公・万次が愛した妹の町という一人二役に挑んでいる。

 

 エグゼクティブプロデューサーの小岩井宏悦氏が杉咲を起用した理由について「凜の役を誰がやるかということが、この映画の成否を決めます。杉咲花さんの出ている作品を何本も見て、その圧倒的な演技力と無垢なビジュアルにこの子しかいない、と惚れこみました」と振り返っていた。まさに"圧倒的な演技力と無垢なビジュアル"この言葉に尽きるのだ。

 まず万次に用心棒の依頼をする時の「心の底から助けてもらいたい」という演技にやられる。大画面にどアップで映し出される凜の顔。美少女の顔をクシャクシャにしながら万次に訴えるのだが、涙と共に鼻水をたらすその姿からは、凛が背負っている覚悟がヒシヒシと伝わってくる。今年で20歳になる杉咲は撮影当時はおそらく18、9歳だと思われる。そんな彼女の強みは、中高生ぐらいの少女にしか見えない童顔さと声。また復讐心から、自分の実力が足りないのに先走ってしまうという、少女ゆえの無謀な行動力溢れる様を面白く演じている。『無限の住人』を観ていると映画『レオン』のナタリー・ポートマンを思い出す。彼女は当時12歳で役を演じていたが、同じような境遇の美少女を18、9歳の杉咲が違和感なく演じられるといのは天性のものでしかない。ただ、それは当然、彼女の演技力があってこそ。

 杉咲が世間で広く認知されたのは2016年のNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』での高畑充希の妹役だが、それまでにも数々のドラマや映画に出演し、その演技力には常に高い評価を得ていた。2015年の映画『トイレのピエタ』では、主人公の余命3か月である男と心を通わせていく女子高生役を熱演。病人である男に不貞腐れた態度をとったかと思いきや、「背が低い子とキスするときはどうするの?」と口にするなどツンデレぶりを遺憾無く発揮。しかしそれは、家庭の問題により常に心が孤独で、行き場のない感情をぶつけた結果だった。彼女の等身大で自然体の演技は、思春期特有の複雑な感情を見事に表現していたのだ。

 そして2016年の日本アカデミー賞ほか各映画賞の助演女優賞を総ナメにした映画『湯を沸かすほどの熱い愛』での銭湯を営む一家の娘役。最初は学校でイジメにあい孤独な女子高生というキャラクターだった。ただイジメが哀しいのではなく、お母さんがバカにされないようにと心の中で必死に耐えているのだ。制服を返してと教室で下着姿になるシーンでは、心の底から訴える感情の演技を披露しており、圧倒される。そこからお母さんの余命を知り、家族の母親代わりのように強くなっていく様には、『トイレのピエタ』とはまた違った思春期の心の成長が伺える。『無限の住人』で、万次に対して兄のような感情が徐々に芽生えていくのと通じるのではないだろうか。

 評価された両作品に共通していることは、孤独な少女の役で、死というどうしようもない悲しみに打ち勝つキャラクターを演じていること。『無限の住人』の両親が殺され、どうしようもない悲しみと孤独に苛まれるという部分では、杉咲三部作と言っても過言ではないほど共通した感情を持っている作品だ。

 そして『無限の住人』は、キャスティングが秀逸。不死身となってから世間に興ざめし、孤独に生き、死に場所を見つけている万次の姿には、どこかSMAPを解散してからの木村の境遇に近いものを感じる。またターミネーターばりに不死身の万次だが、強いとは言え毎回ズタズタに斬られるのもまた面白い。最後のセリフも実に木村らしい〆でニヤリとさせられる。また市川海老蔵のキャラも、まるで実際の境遇を語っているかのようで感慨深い。そして市原隼人が最近はめっきり大人しい役ばかりだったのが、今回は『ROOKIES』の頃のヤンチャな市原が帰って来てちょっとうれしかった。この濃いキャラたちゆえに、小動物のようにおろおろと翻弄される杉咲の少女性がまた映えるのである。

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