「新文芸坐」番組編成・花俟良王インタビュー
記憶に残る映画体験を! 新文芸坐・番組編成が語るオールナイト上映の醍醐味
オールナイト上映でしか得ることができないもの
——会心のプログラムは?
花俟:70年代の怪作『溶解人間』というホラー映画が上映できるかもと聞いて、どうにか番組にしたいと思いました。でも、悩んでも悩んでもいいアイディアが出てこない。やぶれかぶれで“ドロドロ”としたものを集める方針を立てて、「春のドロドロオールナイト」と題した企画にしました(笑)。新生活を迎えるにあたってドロドロの人間関係にはご用心、と(笑)。ほかに、『吐きだめの悪魔』、『悪魔の毒々モンスター』、『マックィーンの絶対の危機』を集めたのですが、これが完売御礼で。非常にびっくりしたのですが、お客さんもみんな楽しみたいんだなと肌で感じました。観たことがないけど、くだらなさそうな映画を覗いてみたい、このイベントに参加したことをSNSでアップすれば盛り上がる……etc、来場していただいた理由は人それぞれだったと思うのですが、入り口はどうあれオールナイト上映、映画の楽しさを知ってもらえた企画になったと思います。
——新文芸坐=オールナイト上映というぐらい、オールナイト上映のイメージが強いです。
花俟:映画館の減少に伴いオールナイト上映という文化が消えかけ、毎週テーマを設けて上映しているのは新文芸坐だけの時期がありました。集客できずにやめたいと思った時もありました。それでもしぶとく続けていたらお客さんも足を運んでくれて、今はギンレイホールさんや早稲田松竹さんも、単発ではありますがオールナイト上映を行うようになりました。オールナイトの灯火を消さなかった自負はありますし、続けていてよかったなと思います。
——観た作品の内容は覚えていなくても、オールナイトで一晩を明かしたという経験が、自分にとって救いになった経験があります。
花俟:オールナイトは、寝てしまってもいいですし、映画の内容を忘れてしまってもいい。でも、オールナイトで一晩過ごした、その体験は記憶としてずっと残る。そして、それは限られた時しかできないことでもあるんです。朝方に出てくるお客さんの顔付きは疲労困憊に包まれていますが(笑)、乗り切った達成感とお客さん同士の中で生まれている連帯感のようなものがあり、独特な雰囲気があります。オールナイト上映でしか得られないものがあるので、まだ未体験の方は思い切って挑戦してほしいですね。
——オールナイトに定期的に通っている新文芸坐ファンからは、花俟さんの上映前の“前説”も有名です。
花俟:毎回している訳ではないんです。評価が固まった作家特集などではしていません。それでも、かつての洋画劇場の解説者ではありませんが、少しの予備知識でより映画を楽しんでいただければと思い始めてみました。いつも緊張してシドロモドロになってしまっているんですが(笑)。非常におこがましい言い方ではありますが、自分が考えたプログラムで観に来たお客さんの人生を変えたかもしれない。その時間を提供できたのかもしれない。その可能性に立ち会えることはとてもうれしいことです。僕が映画を作っているわけではないので、偉そうなことを言うべきではないのですが、その場を提供できることは非常に名誉なことだなと感じています。
(取材・文=石井達也)
■「新文芸坐」今後のスケジュール
上映プログラム
◯4月6日(木)〜8日(土)
「11分間」と「永遠」の物語
『イレブン・ミニッツ』/『ダゲレオタイプの女』
◯4月9日(日)〜22日(土)
気になる日本映画達<アイツラ> 2016
◯4月16(日)
『イップ・マン/継承』公開直前企画 ドニー・イェン/イップ・マンの歩み
『イップ・マン 序章』/『イップ・マン 葉問』
オールナイト上映
◯4月8日(土)
世界の映画作家Vol. 182 敬虔、不敬虔、ラース・フォン・トリアー
◯4月15日(土)
『平成特撮世代』刊行記念 『ヤマトタケル』と「平成ゴジラ」ナイト
◯4月22日(土)
世界の映画作家Vol. 183 ジョニー・トー 華麗なる映画術
公式サイト:http://www.shin-bungeiza.com/