広瀬アリス、“さわやか系”から“陰”のある女性へ 映画『L-エル-』で見せた潜在能力

 

 絵に描いたような不幸を背負った役柄だが、エルには変な悲壮感がない。それは客観的にみれば間違った方向に進んでいるように感じられても、エル自身がブレることなく自らの決断で進む道を切り開いているので、観ている方は負の感情を持たないのだろう。そんなキャラクターを広瀬は“愛の執着”という芯を拠り所に演じ切った。

 明確なビジョンを持って役に入り込んでいくことは、時に自身を極限まで追い込むことになるが、広瀬は、そんな感覚を芝居にぶつけていくやり方が「しっくりいった」と語っている。エルという一人の女性の生涯が描かれているが、劇中では、年代や置かれた環境によって、まったく違う顔を持つ女性として存在している。同一人物を別の顔で演じるという非常に難易度の高い役柄だが、広瀬が芯として据えていた“愛の執着”というキーワードを根底に持ちつつ、エルの脆さとはかなさを見事に表現していた。

 今回の作品で「いくつか感情の引き出しが増えたと思います」と語っていた広瀬。精神的にも肉体的にも追い詰められた現場で、研ぎ澄まされた神経を芝居に昇華できた。その経験は、きっと今後の女優人生に大きなプラスとなるだろう。前述したように、2017年も主演級の待機作が控えている。もともと潜在能力の高かった広瀬がどんな顔をみせてくれるか、今から期待が高まる。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■映画情報
『L-エル-』
公開中
出演:広瀬アリス、古川雄輝、高橋メアリージュン、平岡祐太、前川泰之、成田凌、弥尋、Mikako(FAKY)、古畑星夏、田中要次、高橋ひとみ
原作:Acid Black Cherry 4th ALBUM「L-エル-」より
脚本:下山天・阿久津朋子
監督:下山天
制作プロダクション:AOI Pro.
配給:東宝映像事業部
(c)2016映画「L-エル-」製作委員会
公式サイト:http://acidblackcherry-movie-l.net/

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