東出昌大は規格外の恐るべき俳優だーー天才棋士・羽生善治役の不可解な痛快さ

東出昌大は規格外の恐るべき俳優だ

 村山が羽生を酒に誘う場面がある。ふたりが言葉を直に交わすのは、映画ではこの一度きりである。ふたりは将棋以外の趣味も一致せず、接点がまったく見いだせない。自分たちは将棋でしか交錯できないのだということが、幾つかのやりとりから見えてくる。

 少女漫画好きの村山にとって、羽生と酒席を共にすることは、デートにも似たことだったのでないか。村山は、明らかに羽生を求めている。

 東出は、羽生として、村山のときめきを無闇に共有するのではなく、あくまでも受けとめるだけの、フラットな所作や表情にとどめており、そのことが、ふたりの関係を安易に友情などとは語らせない風情につなげている。

20161118-satoshi-sub2.jpg

 

 互いの力を認め合う好敵手という図式的な構図ではなく、憧れる者と、憧れられる者との邂逅が、そこではある節度の下に、捉えられている。

 最終盤、ふたりの<対話>は、無言の対局の中でだけ繰り広げられる。無論、言葉はない。だが、互いに盤上を凝視する彼らの姿は、ある真実を告げる。

 村山聖にとって、羽生善治は、まったく別個の存在だったから、追い求めずにはいられなかった。東出昌大はここで、彼ならではの<違和>を屹立させ、<不可解=痛快>というテーゼを敢然と指し示している。

■相田冬二
ライター/ノベライザー。雑誌『シネマスクエア』で『相田冬二のシネマリアージュ』を、楽天エンタメナビで『Map of Smap』を連載中。最新ノベライズは『追憶の森』(PARCO出版)。

■公開情報
『デスノート Light up the NEW world』
全国公開中
原作:大場つぐみ・小畑健(集英社ジャンプコミックス刊)
監督:佐藤信介
脚本:真野勝成
出演:東出昌大、池松壮亮、菅田将暉、川栄李奈、戸田恵梨香、中村獅童、船越英一郎ほか
主題歌:安室奈美恵「Dear Diary」
劇中歌:安室奈美恵「Fighter」
配給:ワーナー・ブラザース映画 
(c)大場つぐみ・小畑健/集英社 (c)2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS
公式サイト:www.deathnote2016.com

『聖の青春』
全国公開中
監督:森義隆
脚本:向井康介
原作:大崎善生(角川文庫/講談社文庫)
出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太 
安田顕、柄本時生、鶴見辰吾、北見敏之、筒井道隆/竹下景子/リリー・フランキー
主題歌:秦 基博「終わりのない空」 AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
配給:KADOKAWA
(c)2016「聖の青春」製作委員会
公式サイト:satoshi-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる