『ゲーム・オブ・スローンズ』なぜ海外ドラマの代表作に? ダーク・ファンタジーの魔力に迫る

小野寺系の『ゲーム・オブ・スローンズ』評

突き付けられる「人間の本質」

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 名門氏族であるティリオン・ラニスターは、おそらく本シリーズで最も人気のある、男のキャラクターのひとりだ。生まれつき身長が低く、身体的な能力に劣ることで「小鬼」と蔑まれ、親の莫大な財産をばら撒き娼館通いに明け暮れるが、頭脳はきわめて優秀で弁が立ち、情に厚くユーモアを解する、良い意味でも悪い意味でも、人間的な魅力に溢れた描かれ方をされている。彼は差別されながら、人間のあらゆる醜さを誰よりも見てきた人物である。

 本作の最も大きなテーマは、人間の本質への探求だろう。ティリオン・ラニスターは、あるとき、乳母が誤って床に落とし頭を打ってから異常な行動をとるようになった従妹(いとこ)の思い出話をする。その少年は、知的な活動が一切できなくなった代わりに、毎日庭に座って一日中、石で膨大な数の虫を、何の理由もなく殺し続けたという。果たして「暴力」とは、人間の根本にある本性そのものなのだろうか。そして現代においても戦争や紛争が絶え間なく起こるのは、我々が人間だからなのだろうか。そして、現代と暗黒時代には本質的な違いなどないのだろうか。本作は、そういったおそろしさを我々に突き付けてくる。

 「三国志」を日本向けの小説として書いた吉川英治は、まえがきにおいてこう述べている。

「三国志には、詩がある。単に膨大な治乱興亡を記述した戦記軍談の類でない所に、東洋人の血を大きく打つ一種の階調と音楽と色彩とがある」

 だが、本作を見る限り、西洋人にもその感性はあるということが分かる。『ゲーム・オブ・スローンズ』の、醜い権力闘争が終わりなく繰り広げられる世界のなかには、束の間、人間の優しい情感や、北アイルランドやアイスランド、マルタやモロッコの風景を写し取った自然の美しさも広がり、そこに「氷と炎の歌」の調べが聴こえてくるからである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■作品情報
『ゲーム・オブ・スローンズ』
Huluにて配信中
http://www.hulu.jp

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