『ウエストワールド』落合陽一インタビュー

“現代の魔術師” 落合陽一が語る、近未来SFドラマ『ウエストワールド』と現代テクノロジーの親和性

 『スタートレック』『スターウォーズ』のJ・J・エイブラムと、『ダークナイト』『インターステラー』の脚本を手掛けたジョナサン・ノーランがタッグ組み製作された近未来SFドラマ、『ウエストワールド』が10月13日よりスターチャンネルで日本独占放送される。『ジュラシックパーク』を生み出したマイケル・クライトンの原作がもとになっている本作は、天才科学者フォード博士(アンソニー・ホプキンス)の手によって創られた体感型テーマパーク“ウエストワールド”を舞台に、高度な人工知能(AI)を持つアンドロイドが人間に反乱していく模様を描いたSFミステリーだ。AIの実用化やテクノロジーの進歩にまつわる話題が尽きない昨今、様々な場面で議論にあがる“AIの反乱”というテーマを、米国の大手放送局“HBO”が60億円の製作費を投じ壮大なスケールで映し出す。リアルサウンド映画部では、高度な発展を遂げた現代を「魔法の世紀」と提言する研究者/メディアアーティストの落合陽一氏に本作の魅力を語ってもらうとともに、“AIの反逆の可能性”や“人間とAIの未来”など、現在のテクノロジーの進歩について考察してもらった。

「AIの反乱をメタ的に描いているところが新しい」

 

ーー落合さんはメディアアーティストとして、コンピュータとアナログなテクノロジーを組み合わせる研究をされていますが、そういった視点から観て本作はどのように映りましたか?

落合陽一(以下、落合):ここまでがっつりSFを掘り下げる作品も珍しいし、『攻殻機動隊』などが好きなSFっ子は絶対に気にいると思いました。近年のテクノロジーの発達も踏まえているので、2010年代のSF作品を語る上で欠かせない一本になりそう。それに、70年代の映画がもとになっているから、けっこう野蛮な描写があって、そこも好きでした。特に死人の血と牛乳が混じる描写はかなり気に入ってます。あと、エド・ハリスがとにかく不気味で怖いと思ったのと、登場キャラがいつ銃を撃ってくるのかわからないところも、緊張感があってよかったですね。リッチな作品なので、制作費もすごくかかっているはず(笑)。

ーーマイケル・クライトン原作で70年代に製作された同名映画がもとになっているのはポイントですね。オリジナルは「人間VSロボット」の構図がもっとシンプルに描かれていますが、ジョナサン・ノーラン版はまた違うアプローチをしています。

落合:やっぱり『ジュラシック・パーク』に通ずるストーリーになっていますよね。もともとはエンターテイメントのための空間だったところが一変して、サスペンスフルな出来事が起こったり、エンターテイメントと思わせておいて、実はそこに人間の内包する負の感情や思想が含まれている構成は、次に起こる展開が読めなくて引き込まれます。僕はジョナサン・ノーラン作品が大好きなんですけど、彼の作品は“現実って一体なんだろう”といった問いがテーマになっていますよね。人間の内的な自己反復とテクノロジーの組み合わせは、ジョナサン・ノーランが得意とするエリアだと思いますし、今回の作品にはその強みがかなり活きていると感じました。同じ毎日を繰り返すアンドロイドの視点で描かれた第1話は、『メメント』を彷彿とさせるような流れになっていて、ジョナサンファンとしてもワクワクしました。

 

--本作のアンドロイドやテクノロジーの描写で気になったところはありましたか?

落合:最初はアンドロイドの話なのか、バーチャルリアリティ(以下、VR)の話なのか判断ができなかったです。序盤の時点では、この世界はVRなのかなって思っていたんですけど、見進めていくと「あ、そういう設定なんだ」と種明かしが出てきて、驚かされる。このアンドロイドと人間の区別がつかないっていう設定は、70年代だからこそ想像されたテクノロジーの課題に向き合っていて、かなり面白いテーマだと思いますね。普通に同時代的な課題に向き合っていたら、たぶんVRについての物語にしていたと思うんですよ。人間にヘッドギア被せるか、脳に電極を刺すのかして、バーチャルワールドにダイブしていくみたいな。

ーー『マトリックス』の世界ですね。

落合:そうそうサイバーパンク。で、その脳に送り込まれる情報をどうやってハックしようか、という展開になるはず。でも、この原作が考えられたのが少し前の時代だからサイバーパンクのような感じではないんですよね。テクノロジーによって変わった世界を、生身の人間が実際に体験することで、より臨場感や現実味が増しているのかなって。

ーー『2001年宇宙の旅』や『ブレードランナー』のような昔の近未来SF映画と、『her/世界でひとつの彼女』や『エクス・マキナ』など最近の近未来SF映画では、テクノロジーの捉え方や描写に違いがあると思います。テクノロジーの発展はSF作品にどんな影響を与えていると考えていますか。

落合:『ウエストワールド』に関して言えば、AIの反乱をメタ的に描いているところが新しいと思います。AIが自身をAIだと理解した上で反乱するのと、AIが自身のことを人間だと思って反乱するのは、まったく別の話ですよね。「ロボット対人間」という単純な構図に収まらないから、そこに道徳的な視点も介入してくると思いますし、従来のAI作品よりももう一歩深く踏み込んだ内容だと感じました。

ーーオリジナルが作られた60〜70年代には想像でしかなかったものが、テクノロジーの進歩によって徐々に現実味を増してきたため、よりテクノロジーの描写も具体性を増してきているのかもしれません。

落合:AIの自我の在り方次第で、問題視すべき部分に大きな違いが生じてくると思います。人間とAI、どちらの意識の上でも、対人間か、対AIかによって、より問題は複雑化していきます。まずはその関係性を問わないと設定が読み解けない、そこにこの作品の面白さがあると思います。たとえば、アンドロイド風のキャラが銃を撃ってきたら、そこがメタ構造になるわけじゃないですか。それを踏まえた上で見進めていくと、単純に「AIは怖い」というだけの話にはならない。これは60〜70年代では描けなかった部分かもしれませんし、多大な制作費をかけた連続ドラマだからこそ追求できるテーマだと思います。様々なAI作品で描かれてきた土台を踏まえ、これまでにやり尽くされたところを改めてもう一段階深掘りしていくことで、新たな近未来SF作品を作ろうとしているんだろうなって。

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