『君の名は。』の出会いは“運命”と呼べるのかーー設定と展開から考える、物語のはじまり

 並走する満員電車からお互いの姿を見つけ、何かに惹きつけられるように走り、再会を果たす二人。記憶をなくした人間は、それでも自分の母語だけは失わないというのを聞いたことがある。呼ばれた名前、呼んだ名前を忘れても、自分であった人物の存在だけは失わなかったのであろう。それどころか、きっとこの二人はお互いの名前を思い出したはずだ。

 この一連のエピローグだけが、劇中に登場する唯一の“運命”であると判った。つまり、それまで観ていたものは、この“運命”に至るまでの準備に過ぎず、まだ何も始まってはいなかったということである。並走する電車で二人が会う場面が、この映画における“偶然”から生まれたボーイ・ミーツ・ガールであり、ここから『君の名は。』と句読点が付いた二人の物語がようやく始まる。階段でのラストショットは、“運命的な再会”ではない。名前も顔も知っている者同士の“運命的な出会い”なのだ。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『君の名は。』
全国東宝系にて公開中
声の出演:神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子
監督・脚本:新海誠
作画監督:安藤雅司
キャラクターデザイン:田中将賀
音楽:RADWIMPS
(c)2016「君の名は。」製作委員会
公式サイト:http://www.kiminona.com/

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