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門間雄介の「日本映画を更新する人たち」 第6回(中編)

山下敦弘と李相日の“奇妙な一致”ーー両監督の15年から探る、日本映画の分岐点(中編)

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 しかしシネカノンやアスミック・エースのような独立系映画会社が、継続的に高いクオリティーの作品を製作するのは次第に難しくなってきていた。小川は07年の雑誌『創』でのインタビューでこう話している。

「今や映画の製作費もものすごく上がっていて、おそらく今後は『メゾン・ド・ヒミコ』や『天然コケッコー』のような内容の作品をつくるのはむずかしくなってくるでしょう。3年前に比べても製作費は高騰していますから、邦画のクオリティ・フィルムをきちんとつくろうと思うと、それなりのお金がかかるようになってきています。それに加えて、ビデオのレンタル市場が落ちているので、なかなかマーケットサイズと製作費がアジャストするのは難しい」

 シネコンのさらなる普及により、ミニシアターを中心に全国へ拡大するミニチェーンと呼ばれる興行形態が増え、それまでインディペンデントとメジャーの狭間で作られていたような作品は、少しずつメジャー寄りの志向性を持ちはじめる。一方、ささやかな世界のささやかな物語を紡ぎだすような作品は、本来の意味で単館系と呼ぶにふさわしい、小規模なスケールでの製作を余儀なくされていった。インディペンデントとメジャーの二極化に拍車をかけたのは、08年のリーマン・ショックだろうか。

 そもそも莫大な資金を投じる映画製作は、どこまでいってもリスクから逃れらない。だからリスクを分散する製作委員会方式が発展したのだが、大手各社は製作も配給も、興行も一貫して経営する日本映画の特殊な事情を背景に、シネコン全盛の時代が訪れた00年代以降、リスクの多い製作よりリスクの少ない興行にフィットした会社が勝ちを収めるようになっていった。そんな時流のなか、李鳳宇のシネカノンも渋谷や有楽町などに直営の映画館を持ち、興行の基盤を固めたうえで、製作も配給も担う準大手の地位を目指すようになる。しかし――。

 10年、シネカノンは経営破綻。負債総額50億円は、新たな製作資金の調達法としておりしも注目を集めていた映画ファンドの失敗から、雪だるま式に膨らんだものだった。

「日本映画がダメになったのはなぜか? 答えは簡単。自分の金で映画を作る人が少なくなったからである。道楽でも商売でも自分の資金で映画を製作する者は決して金を捨てるような真似はしない」

 これは李鳳宇が雑誌『Title』に連載していた00年のコラムの一節である。自分の金で映画を作る者が少なくなった時代に、自分の資金で映画を製作しようとした希代のプロデューサーは、有象無象の資金がより合わさったファンドに足もとをすくわれたのだ。ちなみに彼の連載コラムのタイトルは「映画は博打だ!」。徳間書店、大映の徳間康快を「最後の映画博徒」と呼んだ李鳳宇は、一方で安定したビジネスを追求しながら、やはりみずからも「映画博徒」として映画の夢に沈んだのかもしれない。念のため付け加えておくと、彼はいまも映画の仕事をつづけ、老境に差しかかった男の夢と悲哀を描く『グレート・ビューティー/追憶のローマ』などの配給に携わっている。

 映画を製作する人たちにとって、必ずしも幸福とは言えない時代が訪れようとしていた。山下と李相日のふたりも、『天然コケッコー』『フラガール』のあと、新作を世に出すのに数年の歳月を要することになる。山下が次作『マイ・バック・ページ』を発表するのは5年後、李が次作『悪人』を発表するのは4年後のことだ。でもすべてが暗転したわけではない。

 『フラガール』の監督に起用された李は、キャスティングを進める際、ある女優の名を真っ先に挙げて、実際に彼女の代表作となる映画を生みだした。蒼井優である。そしてフラガールの中心となって踊る少女を演じた彼女は、ちょうど10年後、山下の『オーバー・フェンス』で不思議な求愛のダンスを踊る女に扮し、その代表作を更新する。次の時代につながる萌芽も、このとき確かに顔をのぞかせていた。

※引用
『EYESCREAM』2011年1月号
『キネマ旬報』2004年7月15日号
『SWITCH』2001年11月号
『パッチギ!的 世界は映画で変えられる』李鳳宇
『創』2007年7月号
『Title』2000年7月号

■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper’s BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter

■公開情報
『怒り』
9月17日(土)、全国東宝系にてロードショー
監督・脚本:李相日
原作:吉田修一「怒り」(中央公論新社刊)
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡
配給:東宝
(c)2016映画「怒り」製作委員会
公式サイト:http://www.ikari-movie.com/

『オーバー・フェンス』
9月17日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:山下敦弘
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志「オーバー・フェンス」(小学館刊『黄金の服』所収)
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香
配給:東京テアトル+函館シネマアイリス(北海道地区)
(c)2016「オーバー・フェンス」製作委員会
公式サイト:overfence-movie.jp

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